案件の見積りはなぜ何度も出すのか?再見積の考え方を解説
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 見積りを段階に分けて出す考え方が契約プロセスに置かれていることと、超上流工程に重みが置かれる理由
- ステークホルダの合意を見える形にする必要性と、運用・保守まで見据えた計画・体制・コストへの配慮
- 見積書が個別契約の基礎になる位置づけと、段階を分けることで抑えられる仕様変更の影響
案件に参画した直後に見積りを出し、要件がまとまった段階でまた見積りを求められると、同じ説明を重ねている気持ちになり、身構えることがあります。段階を分けて見積りを出す考え方そのものが、契約の枠組みに置かれています。IPAが公開する講演資料は、超上流工程から個別契約に至る流れの中に、この考え方を位置づけています1。この記事では、その位置づけと、段階ごとに確かめる項目を整理します。
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1. 段階を分ける前提で置かれた見積り
一度で確定させようとすると起きること
要件がまだ固まっていない時点で出した見積りを、そのまま最後まで通そうとすると、途中で前提が崩れます。設計が進むほど、当初は見えていなかった作業が姿を現すためです。
ここで戸惑うのは、見積りを出し直す側だけではありません。発注する側にとっても、最初の数字と実際の作業量がずれることは、進め方そのものを見直す材料になります。
IPAが公開する講演資料は、こうしたずれを前提にした契約の組み立て方を扱っています。契約プロセス・手続き規定として、多段階契約と再見積りの考え方が取り入れられています1。
契約プロセスに置かれた段階分けの考え方
多段階契約という言葉は聞き慣れなくても、中身は単純です。工程が進むたびに、その時点で分かっている範囲だけを対象に見積りを出し直す、という進め方を指します。
一度きりの見積りより、工程ごとに区切った見積りのほうが、前提と実態のずれを早く見つけられます。ずれを早く見つけられれば、対応も早く始められます。
見積りを出し直すよう求められたとき、それは見積りが甘かった合図ではありません。むしろ、契約プロセスが最初から想定している段階に来た、という合図です。
出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成1
2. 最初に挙げられた前の工程の重み
超上流工程の指す範囲
超上流工程とは、要件を細かく詰める前の、事業の目的や進め方の枠組みを固める段階を指します。見積りの土台になる範囲を、ここでどこまで決めるかが、後工程の見え方を左右します。
契約プロセスガイドには、超上流工程の重要性が挙げられています1。見積りの精度を語るとき、詳細設計の技術よりも先に、この段階の扱い方が問われる理由がここにあります。
超上流工程で決まる範囲が狭ければ、後の工程で見積りを出し直す回数は増えます。逆に、この段階でどこまでを前提にするかを明確にできれば、出し直しの理由も説明しやすくなります。
最初に重みが置かれる理由
見積りを受け取る側からすると、超上流工程の内容が曖昧なまま提示された数字は、あくまで仮の数字として扱ったほうが見通しが立ちます。
工程の呼び方を覚えることよりも、いま自分が超上流工程の段階にいるのか、それとも詳細を詰める段階にいるのかを見分けるほうが、見積りとの向き合い方を変えます。
3. 合意を見える形にする必要性
ステークホルダの合意の相手
ステークホルダとは、発注する側の担当者だけを指すわけではありません。実際に手を動かす受注する側や、後で運用を担う担当者まで含めて、合意の相手として位置づけられています。
契約プロセスガイドには、ステークホルダの合意の可視化の必要性が挙げられています1。口頭でのやり取りだけで進めた合意は、後から見返せる形で残りません。
可視化されていない場合の影響
可視化とは、難しい書式を作ることではありません。何を前提にしたか、いつの時点の合意かを、後から見返せる形に残しておくことを指します。
見積りに関わる合意は、工程の節目ごとに残します。何を確かめ、何を記録するかを節目ごとに分けておきます。
| 場面 | 可視化しておきたいこと | 残しておきたい記録 |
|---|---|---|
| 要件がまとまった段階 | 前提にした範囲 | 合意した仕様の一覧 |
| 仕様の変更が生じた段階 | 変更の理由と影響する範囲 | 変更前後の見積りの差 |
| 見積書を提示する段階 | 再見積りが必要になる条件1 | 提示した金額と前提の対応 |
| 個別契約を結ぶ段階 | 提案依頼書・提案書との整合1 | 取引条件そのもの |
こうして残した記録は、次の見積りを出し直すときの説明にもなります。前提が変わった理由を、そのつど言葉で組み立て直す必要はありません。
出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成1
4. 先の工程まで見た配慮
運用・保守も見据えた計画・体制・コストへの配慮
見積りは、目の前の開発工程だけを見て組み立てるものではありません。契約プロセスガイドには、運用・保守も見据えた計画・体制・コスト等への配慮が挙げられています1。
開発が終わった後の運用まで含めて考えると、見積りに含める範囲は広がります。逆に、その配慮が抜け落ちたまま見積りが組まれると、後になって運用の負担だけが積み残されます。
要件定義における信頼性向上の視点
要件定義の段階についても、契約プロセスガイドには信頼性向上の視点の必要性が挙げられています1。要件をただ数え上げるだけでなく、その内容がどこまで確かな前提かを見極める視点です。
要件の数を積み上げることよりも、その要件がどれだけ確かな前提の上に立っているかを見極めるほうが、見積りの精度に効きます。
見積りの数字は、どの段階の、どの範囲を前提にしているかとあわせて確かめます。次に出し直しを求められたときも、同じ点から確かめられます。
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5. 項目として置かれた見積書
見積書に挙げられている項目
見積書は、金額だけを書いた紙ではありません。契約プロセスガイドには、見積書について再見積りの必要性とリーガルポリシーの明確化が挙げられています1。
再見積りの必要性が見積書自体の項目として挙げられているということは、状況が変われば出し直すことが、最初から前提に含まれているということです。
リーガルポリシーの明確化も同じく見積書の項目です。見積りに関わる責任の範囲をどう考えるかを、金額とあわせて確かめておく、という位置づけです。
工程の中での見積書の位置づけ
見積書は単独で完結する書類ではなく、それまでの工程と、この後の契約とをつなぐ位置に置かれています。何を基礎に、何と組み合わせて扱われるかを整理すると、見え方が変わります。
| 見積書に関わる観点 | 内容 |
|---|---|
| 見積書の性格 | 状況が変われば出し直される前提の書類1 |
| 見積書の使われ方 | 提案依頼書・提案書とあわせて個別契約の基礎になる1 |
| 見積書に伴う配慮 | 運用・保守まで見据えた計画・体制・コストへの配慮1 |
見積書を受け取った側も、出した側も、金額の増減だけでなく、前提のどこが変わったのかを見積書を軸に確かめられます。
6. 個別契約の基礎になる書類
提案依頼書・提案書・見積書の関係
個別契約は、いきなり結ばれるものではありません。個別業務に着手する前に、提案依頼書および提案書、見積書を基礎として取引条件を定め、個別契約を締結する、という流れが示されています1。
提案依頼書は発注する側が示す検討の前提であり、提案書は受注する側が示す進め方です。見積書は、その両方を踏まえて金額と条件を提示する書類にあたります。
個別契約に定められる内容
この3つの書類がそろって初めて、個別契約の取引条件が定まります。見積書だけを単独で見直しても、提案依頼書や提案書との対応が崩れていれば、条件の整合は取れません。
3つの書類がそれぞれ何を担うのかを整理すると、個別契約のどこを確かめればよいかが見えてきます。
| 文書 | 担う役割 |
|---|---|
| 提案依頼書 | 発注する側が示す検討の前提 |
| 提案書 | 受注する側が示す進め方 |
| 見積書 | 金額と条件の提示1 |
| 個別契約 | 3つの書類を基礎に定められる取引条件1 |
個別契約を結ぶ段階で見積りの内容に納得できないときは、金額そのものより先に、提案依頼書・提案書とのどこが対応していないかを確かめたほうが、話を整理できます。参画したあとに見積りの前提が変わったときも、Remoguでは、参画中も専任のエージェントが定期的に連絡し、困りごとの相談に乗ります。
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7. 分けたときの変化と、確かめる項目
多段階契約が要る理由
多段階契約がなぜ要るのか、その理由も講演資料に挙げられています。多段階契約が要るのは、ユーザとベンダの間で役割分担の合意が取りづらい場合があるためです1。
役割分担の合意が取りづらいまま工程を進めると、どこまでを見積りに含めるかの前提がずれます。多段階契約は、そのずれをそのつど確かめ直す仕組みとして置かれています。
分けることで抑えられる影響
多段階契約を取り入れることで、検討が進むにつれて徐々に明確になる仕様や、開発の途中で生じる仕様変更の影響を、極力抑えられます1。
影響を抑えられるのは、変更が起きてから調整するからではなく、変更が起きる前提で見積りを区切っているからです。区切りがあること自体が、調整の材料になります。
原理原則としてのリスク低減
原理原則として、多段階の見積りは、発注する側と受注する側の双方のリスクを低減します1。どちらか一方だけが得をする仕組みではない、という位置づけです。
図の作成:Remogu編集部。多段階契約を取り入れたときの流れを整理したもので、統計データではありません
図に示した通り、分けることで変わるのは、金額の大きさではなく、ずれを確かめるタイミングです。タイミングが決まっていれば、見積りを出し直すことも、想定内の作業として進められます。
図の作成:Remogu編集部。段階ごとに確かめたい項目を整理したもので、統計データではありません
冒頭の身構えは、見積りを出し直す場面が契約プロセスの中に最初から置かれていると分かれば、別の見え方になります。出し直しは見積りの失敗ではなく、段階を分けた契約が想定している作業です。
次に再見積りを求められたら、今どの段階の見積りかと、見積書に何が挙げられているかを確かめます。あわせて、運用・保守までの配慮と、再見積りが必要になる条件も見ます。Remoguでは、登録後のオンライン面談で、エージェントがスキルや経験、希望条件をうかがいます。見積りで迷ってきた点も、その場で伝えられます。
8. よくある質問
要件が固まらないまま見積りを求められた場合はどう考えればよいのでしょうか
要件定義には信頼性向上の視点が必要とされています1。超上流工程の重要性も挙げられているため1、要件が固まっていない段階の見積りは、その前提を確かめる段階の見積りです。
再見積りを求められたとき、まず何を確かめればよいのでしょうか
見積書に何が挙げられているかを、まず確かめます1。再見積りの必要性そのものが見積書の項目に含まれているため、出し直しを求められること自体は、前提から外れた出来事ではありません。
多段階の見積りで低減されるのは、どちらのリスクですか
原理原則として、多段階の見積りは発注する側と受注する側の双方のリスクを低減します1。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」多段階の考え方(2025年4月・2026年10月確認)