個人事業主の特定商取引法に基づく表記|住所の省略とバーチャルオフィスの条件を解説
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 通信販売の広告に個人事業者が表示する氏名・住所・電話番号と、屋号やサイト名だけでは認められない理由
- 番地の一部省略や私書箱のみの表示が認められない点と、住所・電話番号を省略できる条件
- バーチャルオフィスの住所を示す場合の考え方と、連絡が取れないときに表示義務を果たしたことにならない点
週末に作ったアプリの販売ページが、ほぼ仕上がりました。あとは「特定商取引法に基づく表記」を埋めるだけなのに、住所の欄で手が止まります。案件の合間に売るだけの小さなアプリでも、自宅の住所を載せるのかと考えると、公開ボタンが重くなります。迷いが出るのは、載せる項目と省ける条件が頭の中で混ざっているからです。表記は、隠す方法より先に、連絡がきちんと取れる形をつくってから書きます。
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1. 個人事業主が特定商取引法の表記を確かめる理由
広告に載せる項目が決まっている
消費者庁の特定商取引法ガイドは、通信販売の広告で個人事業者が表示する項目として、氏名または登記された商号、住所、電話番号を示しています1。ネットで自作のアプリや有料サービスを売る個人事業主にとって、販売ページの表記欄に何を書くかは、この項目で決まります。
案件の仕事では、請求書や契約書の宛名を取引先とやり取りするだけで済みます。ネット販売では、不特定の購入者に向けて、販売ページ上で事業者の名乗りを示す形になります。書く相手が取引先から購入者へ変わるので、案件で慣れた書き方をそのまま持ち込めません。
省略できる場面は条件つき
住所と電話番号については、消費者からの請求によって表示事項を書面や電子メール等で遅滞なく提供する旨を広告に表示し、実際に遅滞なく提供できる措置を講じている場合に、表示を省略することも可能とされています2。ただし、この省略は条件がそろって初めて成り立ちます。「載せなくてもよい」と覚えるのではなく、条件を満たす準備があるかどうかで考えます。
なお、受託開発のような案件の仕事が通信販売に当たるかどうかは、この記事の資料にはない論点です。ここで扱うのは、消費者庁のガイドが通信販売の広告について示している表示事項です。自分の販売の形が当たるかどうかは、消費者庁のガイドや専門家に確かめてください。次の節で、表示する3項目を具体的に見ていきます。
2. 表示する氏名・住所・電話番号
個人事業者が書く3項目
個人事業者が通信販売の広告に表示するのは、氏名または登記された商号、住所、電話番号の3項目です1。個人事業主として開業届を出していても、法人のように登記された商号を持っているとは限りません。そのため、自分の氏名を書く場面が中心になります。
| 項目 | 個人事業者の書き方 |
|---|---|
| 氏名(名称) | 氏名、または登記された商号を書きます。通称や屋号、サイト名では認められません |
| 住所 | 現に活動している住所を、正確に書きます |
| 電話番号 | 広告に表示します。省略できるのは、請求があれば遅滞なく提供する措置を講じている場合に限ります |
出典:消費者庁「通信販売広告について」をもとに作成
屋号やサイト名では認められない
個人事業者の氏名(名称)は、通称や屋号、サイト名では認められません1。確定申告や請求書で屋号を使っている人は、販売ページでも同じ屋号を書きたくなります。ところが、購入者が相手を特定するための表示として、氏名か登記された商号が求められています。
屋号を併記すること自体は、この資料には書かれていません。確かなのは、屋号やサイト名だけの表記は認められない点です。屋号を併記する場合も、氏名を欠かさず書いておけば、表記の中心は崩れません。
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3. 住所の書き方で認められないもの
現に活動している住所を正確に
住所は、個人事業者でも法人でも、現に活動している住所を正確に表示する必要があります1。自宅で仕事をしている個人事業主なら、現に活動している場所は自宅です。自宅の住所を載せたくない気持ちと、この要件がぶつかるところが、表記で最も迷う点です。
番地の省略と私書箱だけの表示
住所の番地を一部省略するような不正確な表示は認められません。現に活動していない私書箱等の住所のみの表示も認められません1。「市区町村までなら見せてもよい」と考えて番地を落とす書き方や、郵便物を受け取るだけの私書箱を住所欄に入れる書き方が、これに当たります。
出典:消費者庁「通信販売広告について」をもとに作成
そのため、住所欄をぼかすという発想では、条件を満たしません。載せない形を目指すなら、次の節で見る「請求があれば遅滞なく提供する」という別の道が出発点になります。
4. 住所と電話番号を省略できる条件
広告への表示と提供の措置
通信販売広告Q&A(Q17)は、消費者からの請求によって表示事項を記載した書面や電子メール等を遅滞なく提供することを広告に表示し、実際に遅滞なく提供できる措置を講じている場合には、住所と電話番号の表示を省略することも可能としています2。省略の対象は住所と電話番号で、氏名は含まれません。
条件は2つあります。1つは、請求があれば遅滞なく提供する旨を広告に表示していることです。もう1つは、実際に遅滞なく提供できる措置を講じていることです。文言を載せるだけでは条件を満たさず、請求が来たときに実際に動ける準備があって初めて、省略の条件に当たります。
「遅滞なく」の意味
ここでいう「遅滞なく」とは、販売方法等の取引実態に即して、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されることをいいます2。購入者が申し込むかどうかを決める前に、表示事項が手元に届いている必要があります。購入後に届く形では、この意味を満たしません。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 広告への表示 | 消費者からの請求によって、表示事項を記載した書面や電子メール等を遅滞なく提供する旨を表示します |
| 提供の措置 | 実際に遅滞なく提供できる措置を講じます |
| 「遅滞なく」の意味 | 取引実態に即して、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されることです |
| 省略できる項目 | 住所と電話番号です |
この表のとおり、省略は「請求への対応を実際に動かせるか」で成り立ちます。自宅の住所を出さずに済ませたい人ほど、請求を受ける窓口と、返信の手段を先に決めておく必要があります。住所を出す代わりに、別の形で連絡の手段を整える方向です。次は、バーチャルオフィスの住所を使う場合の考え方です。
5. バーチャルオフィスを使うとき
住所と電話番号を示す場合の考え方
通信販売広告Q&A(Q18)は、一定の措置が講じられ要件が満たされる場合には、プラットフォーム事業者やバーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示することによっても、特定商取引法の要請を満たすものと考えられるとしています2。自宅の住所を広告に載せたくない個人事業主にとって、選べる道のひとつです。
ただし、前の節で見た私書箱だけの表示は認められません1。バーチャルオフィスの住所を載せる場合は、Q18が示す「一定の措置が講じられ要件が満たされる場合」という条件の側で考えることになります。どの措置が要件に当たるかは、この記事の資料では詳しく触れていません。使う前に、消費者庁のQ&Aの本文で確かめてください。
連絡が取れないと表示義務を果たしたことにならない
Q&Aは続けて、個人事業者、プラットフォーム事業者、バーチャルオフィス運営事業者のいずれかが不誠実で消費者から連絡が取れないなどの事態が発生する場合には、表示義務を果たしたことにはならないとしています2。住所の欄に何かを書けば済むのではなく、購入者が実際に連絡をつけられるかどうかが問われます。
出典:消費者庁「通信販売広告Q&A」をもとに作成
3者のうち、自分で整えられるのは自分の窓口です。ほかの2者は、使う前の確認と契約の段階で動きを確かめるしかありません。そのため、運営事業者とどこまで合意できているかが、表記の土台になります。
運営事業者との合意で確かめる項目
ここからは、この記事の整理です。資料に書かれた要件ではなく、連絡が取れない事態を避けるために、契約前に運営事業者へ尋ねておきたい項目を挙げます。
- その住所を、販売ページの特定商取引法に基づく表記に載せてよいか
- 購入者からの郵便や連絡を、どの手段で、どの頻度で自分に取り次ぐか
- 電話番号が付くなら、誰がどの時間帯に応答するか
- 取り次ぎが滞ったときの連絡先と、契約を終えたときの表記の直し方
この4項目は、契約書や利用規約の文面で確かめられる形にしておくと、あとで食い違いが起きません。口頭の説明だけで済ませず、手元に残る形で受け取ります。バーチャルオフィスの住所を使うと決めた時点で、問い合わせの取り次ぎまで含めて「連絡が取れる形」と考えます。次は、電話番号と問い合わせの受け方です。
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6. 電話番号と問い合わせの受け方
夜間は留守番電話でも構わない
通信販売広告Q&A(Q20)は、夜間等営業を行っていない時間帯については、留守番電話等を利用することは構わないとしています2。日中は別の案件の作業で手が離せない個人事業主でも、電話番号の表示そのものをあきらめる必要はありません。応答できない時間帯を、留守番電話に任せる形が資料から読み取れます。
この資料が述べているのは、営業を行っていない時間帯の留守番電話等の利用です。常に誰かが電話に出る体制を求めているかどうかは、この記事の資料にはありません。迷うときは、消費者庁のQ&Aの本文か、専門家に確かめてください。
問い合わせ窓口を回す段取り
ここからは、この記事の整理です。留守番電話を置くなら、応答メッセージで氏名か商号を名乗り、折り返しの方法を伝える形にします。録音を残すだけで終わらせず、折り返す人と、折り返しを確かめる時刻をあらかじめ決めておきます。
電話のほかに、問い合わせ用のメールアドレスを販売ページに置く場合もあります。メールの受信箱は案件の連絡と混ざりやすいので、販売用のアドレスを別に用意し、届いた問い合わせだけを拾える状態にしておくと、返信が滞りにくくなります。
案件で稼働している間に問い合わせが届くと、返信が後回しになりがちです。そのため、確認する時刻を稼働の前後に決めて、1回で返す文面を用意しておきます。請求への返信を後から作る形にすると、次の節で見る「遅滞なく」に間に合わなくなります。次は、表記を書く順番です。
7. 表記を書く順番
4つを並べる順番
表記は、氏名、住所、電話番号、請求への準備の順に整えると、手戻りが起きにくくなります。氏名は屋号だけにしない1、住所は現に活動している住所を正確に書く1、という出発点が先にあり、省略やバーチャルオフィスは、その出発点から離れる選択です。
| 順番 | 書く内容 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| ① 氏名 | 氏名、または登記された商号を書きます。屋号やサイト名だけにしません | 屋号を併記するかどうかです |
| ② 住所 | 現に活動している住所を番地まで書くか、請求への提供に切り替えるか、バーチャルオフィスの住所を使うかを選びます | 購入者が連絡をつけられる形です |
| ③ 電話番号 | 広告に表示するか、省略して請求への提供に回します | 夜間の留守番電話の応答内容です |
| ④ 請求への準備 | 請求があったときに、遅滞なく提供できる措置を用意します | 返信の手段と担当です |
出典:消費者庁「通信販売広告について」「通信販売広告Q&A」をもとに作成
ページのどこに置くかは、購入ボタンの近くから1回で開けるリンクを用意し、「特定商取引法に基づく表記」と題したページにまとめる形が考えやすいでしょう。販売ページごとに書き直さず、1か所を直せば全体が変わるようにしておくと、住所や窓口を変えたときの更新漏れを防げます。これはこの記事の整理で、資料にある要件ではありません。
請求があったときに出す文面と手順
住所と電話番号を省略するなら、広告に請求があれば遅滞なく提供する旨を表示し、実際に提供できる措置を講じておく必要があります2。そして「遅滞なく」は、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されることを指します2。請求を受けてから文面を考える形では、この条件に間に合いません。
ここからは、この記事の整理です。返信の文面には、氏名または商号、住所、電話番号、問い合わせ先、送る日付を入れた形をあらかじめ作っておきます。請求のメールを受け取ったら、その文面に宛名を足して返す、という手順に絞れば、返信に迷う時間が減ります。テンプレートの丸写しにはせず、自分の事業の実態に合わせて書きます。
請求の受付口は、販売用のメールアドレスか、問い合わせフォームのどちらかに決めます。受け取ってから返すまでの手順を、自分用のメモに1枚書いておくと、案件で忙しい時期でも手が止まりません。請求が来たあとの動きは、受付、文面の確認、送信、送った記録の保存の順に流すと、抜けが起きにくくなります。
連絡がきちんと取れる形に戻る
住所の欄で手が止まったときは、隠せるかどうかから考え始めたくなります。けれども、番地を落とす表示も、私書箱だけの表示も認められません1。残る道は、条件を満たして省略するか、バーチャルオフィスの住所を条件つきで使うかです2。どちらも、購入者から連絡が取れることが前提でした2。
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週末に作ったアプリの公開ボタンは、表記の4項目を順に決めていけば、押せる状態になります。表記は、隠す方法より先に、連絡がきちんと取れる形をつくってから書きます。
8. よくある質問
屋号だけの表記でもよいですか
屋号だけでは認められません。個人事業者の氏名(名称)は、通称や屋号、サイト名では認められないと、消費者庁の資料に書かれています1。氏名、または登記された商号を書き、そのうえで屋号を添えるかどうかを決めます。屋号の併記そのものは、この記事の資料には書かれていません。
自宅住所を載せずに済みますか
条件つきで、載せずに済む場合があります。請求があれば遅滞なく提供する旨を広告に表示し、実際に提供できる措置を講じていれば、住所と電話番号の表示を省略することも可能です2。バーチャルオフィスの住所を示す道もありますが、一定の措置が講じられ要件が満たされる場合に限られます2。番地の省略や私書箱だけの表示は認められません1。
電話に24時間出なければいけませんか
消費者庁のQ&Aは、夜間等営業を行っていない時間帯については、留守番電話等を利用することは構わないとしています2。常に応答する体制の要否は、この記事の資料にはありません。留守番電話に氏名を名乗る応答を入れ、折り返す段取りを決めておくと、連絡の道筋が見える形になります。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 消費者庁「通信販売広告について」(2025年・2026年10月確認)
*2 消費者庁「通信販売広告Q&A」(2025年・2026年10月確認)
*3 Remogu(株式会社LASSIC運営)公開情報:扱う案件の90%以上がフルリモート可能