【研究開発エンジニア】副業で受けてよい範囲を決める秘密保持・競業・発明の3つの条件
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 近い分野ほど副業の依頼が来る一方で、同じ近さが本業の秘密や競業とぶつかる理由と、その見分け方
- 厚生労働省の解説資料が挙げる秘密情報の留意点と、規程の例が副業を禁止・制限できるとする場合
- 本業の規程と副業先の契約の両方で確かめる点と、発明・成果物の扱いを受ける前に決める順番
副業の打ち合わせで、先方から「御社で扱っている分野に近いので、まさに経験を活かしていただけます」と言われました。研究開発エンジニアにとっては、うれしい評価です。ところが同時に、本業の研究テーマや実験データのことが頭に浮かび、返事の手が止まります。業務委託の副業を受けるかどうかは、受けてよい範囲は、仕事の中身より先に、本業の規程と契約で確かめます。
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1. 研究開発の副業が本業とぶつかりやすい理由
近い分野ほど頼まれる構図
副業の依頼は、本業で身につけた力が見える分野に集まります。解析の手法、分野の知識、試作を回してきた経験は、研究開発の外でも求められる力です。依頼する側から見れば、近い分野の人に声をかけるのは自然な選び方でしょう。
一方で、受ける側には別の事情があります。近い分野の仕事は、本業で扱っている未公開の研究テーマや実験データと、話題が重なりやすい仕事でもあります。打ち合わせで「それならこのデータも使えますか」と聞かれた場面を想像すると、近さがそのまま悩みの種になることが分かります。
そのため、研究開発エンジニアの副業では、仕事の中身がおもしろいかどうかより先に、本業との関係を見ておく必要があります。ここで書くのは、書き手の見立てです。個別の組織の扱いは、読者の本業の規程と契約で決まります。
重なりは情報の種類で見分ける
本業で触れる情報には、未公開の研究テーマ、実験データ、試作の設計があります。副業で求められる知見には、分野の知識、解析の手法、論文で公開済みの知見があります。二つの円の重なる部分が、受ける前に確かめが要る範囲です。
図の作成:Remogu編集部。研究開発の副業で起きやすい重なりを整理したもので、統計データではありません
たとえば、論文で公開済みの知見は、右の円にあって左の円にもあるように見えることがあります。ただし、公開済みなのは論文に書かれた範囲です。その周辺にあるデータや試行の記録は、公開されていないことがあります。同じ分野名でも、どこまでが公開済みなのかは情報ごとに見分ける必要があります。
では、その見分けは誰が決めるのでしょうか。次の節では、本業の組織ごとに副業の扱いが違うことと、確かめる先を整理します。
2. 副業できるかは本業の組織ごとに違う
厚生労働省の解説資料が挙げる留意点
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2025年3月)は、副業・兼業をする人が注意する点の例として、既に行っている仕事と副業・兼業のそれぞれで知り得た業務上の秘密情報を漏らさないことを挙げています1。研究開発の副業では、この一文がそのまま読者の場面に当てはまります。
ただし、この資料が並べている留意点は秘密情報だけではありません。秘密情報は、その中の一つです。本記事が秘密保持を中心に扱うのは、研究開発という仕事が未公開の情報に近いためで、資料全体の結論を言い換えているわけではありません。
同じ解説資料は、既に会社で働いている人が副業・兼業を行えるかどうかは会社によって異なるとしています1。副業の可否を同じ分野の知人に聞いても、その人の本業の組織では当てはまらないことがあります。まず自分の本業の側のルールと契約の内容を確かめる、という順番が出てきます。
確かめるものと見る点
確かめる対象は、本業の規程、本業の契約、秘密保持の誓約書、届出の窓口の4つに分けると整理できます。次の表の「見る点」は、書き手の見立てです。資料が定めた項目ではないので、自分の本業の書類に当てはめて読み替えてください。
| 確かめるもの | 見る点 |
|---|---|
| 本業の規程 | 副業の届出や許可の扱いが書かれているか |
| 本業の契約 | 秘密保持や競業に関する条項があるか |
| 秘密保持の誓約書 | 対象になる情報の範囲がどう書かれているか |
| 届出の窓口 | 副業の相談を受け付ける部署や担当があるか |
この4つがそろえば、副業先に「受けられるかどうかを本業の側で確かめてから返事をします」と伝えられます。返事を待ってもらう理由が具体的になるので、断るかどうかを決める前の時間を作れます。
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3. 規程の例が挙げる「禁止・制限できる場合」

モデル規定が示す場合は例示
同じ解説資料には、モデル就業規則の規定例が載っています。その例は、届出に基づいて副業・兼業を禁止または制限できる場合として、企業秘密が漏洩する場合や、競業により企業の利益を害する場合などを挙げています1。研究開発エンジニアには、どちらも身近な言葉でしょう。
ここで押さえておきたいのは、これが例示だという点です。各組織の規程は、その組織の実態に合わせて決めるものです。本業の規程が同じ書き方とは限らないので、自分の本業の書類に何が書かれているかは、実物を読んで確かめます。
研究開発の副業で関わりやすい場面
規程の例が挙げる場合を、研究開発の副業の場面に置き換えると次のとおりです。右の列は書き手の見立てで、資料が示した対応ではありません。左の列に挙げた4つの場合も、資料が示した例を並べたものですが、規程の例が挙げる内容のすべてではありません。
| 規程の例が挙げる場合 | 研究開発の副業で関わりやすい場面 |
|---|---|
| 労務提供上の支障 | 本業の研究開発に使う時間や集中力と、副業の稼働が重なる場面 |
| 企業秘密が漏洩する場合 | 未公開の研究テーマや実験データに近い仕事を受ける場面 |
| 名誉や信用・信頼関係 | 副業先での発言や成果の出し方が、本業の組織との関係に関わる場面 |
| 競業により利益を害する場合 | 本業と同じ分野の製品や研究に近い仕事を受ける場面 |
同業でも内容を見て判断する組織の例
同じ解説資料に掲載された企業の取組例の1つは、秘密保持や競業避止の観点から同業他社での副業・兼業を一律には禁止せず、副業・兼業の業務内容を確認したうえで自社の競合に当たるかを判断しています1。分野が近いという理由だけで受けられないと決めつけない組織もある、という例です。
とはいえ、これは1社の例です。一般的な扱いとして、同業の副業が認められるとは言えません。読者の本業の組織が同じ判断をするとは限らないので、自分の副業の中身を書き出して、本業の窓口で確かめる流れが必要になります。
4. 営業秘密の漏えいは組織の側でも大きな関心事
組織が営業秘密を気にしている背景
本業の組織が規程や誓約書で秘密保持を求めるのは、組織の側でも営業秘密の扱いを大きな課題としているからです。IPAの「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」(2025年8月29日公開)では、過去5年以内の営業秘密の漏えい事例・事象を認識している割合は35.5%でした2。
この数字から言えるのは、営業秘密の漏えいが組織にとって現実の関心事だということまでです。漏えいの原因を示す数字ではないので、副業と結びつけて読むことはしません。副業をする人が気にするのは、自分が持ち出す側にならないかどうかです。
INPIT(工業所有権情報・研修館)の知財戦略エキスパートのページには、令和7年度の相談支援件数のうち、営業秘密支援は331件だったと載っています3。営業秘密の管理に手を打つ動きが、組織の側にあることを示す数字として読めます。個人の副業の相談先を案内する資料ではありません。
本業の情報を3つに分けて考える
組織が営業秘密を気にしているなら、副業を受ける側は、本業で触れる情報を3つに分けておくと話が進みやすくなります。次の図は、書き手の見立てによる分け方です。数値ではなく、情報の種類で並べています。
図の作成:Remogu編集部。本業の情報の見分け方を整理したもので、統計データではありません
この3つのうち、副業の話題に出してはいけないのは左の情報です。中央の公開済みの知見は、公開された範囲であれば話題にできます。右の一般的な技術や手法は、本業の組織の固有の情報ではなく、自分の力として持ち込める部分です。
ただし、この分け方でも、どの情報がどこに入るかは本業の規程や誓約書で決まります。判断に迷うものは、左の側に置いて確かめるのが安全側の考え方です。次は、副業先の契約にも秘密保持や競業の条項が入る点を見ていきます。
5. 副業先の契約にも秘密保持・競業の条項が入る
発注事業者が課す3つの義務の目的
公正取引委員会などの「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2026年1月)は、発注事業者がフリーランスに課す秘密保持義務、競業避止義務、専属義務について説明しています。一般的には、発注事業者が営業秘密やその他の秘密情報の漏洩を懸念せずに取引すること等を目的とするものだとしています4。
これは、発注事業者がフリーランスに課す義務の目的の説明です。本業の組織が課す義務の話ではありません。ただし、副業の依頼を受ける側から見ると、副業先との業務委託契約にも、同じ種類の条項が入りうるという見立てが立ちます。
つまり、副業を受ける人は、本業の規程や契約と、副業先の契約の二つから、秘密保持や競業に関する約束を受けることになります。片方だけを読んで受けるかどうかを決めると、もう片方の約束とぶつかる場面が出てきます。
二つの約束の両方向を確かめる
確かめる方向は2つあります。1つは、本業で知り得た秘密を副業先に持ち込まないことです。もう1つは、副業先で知り得た秘密を本業に持ち込まないことです。厚生労働省の解説資料が、既に行っている仕事と副業・兼業のそれぞれで知り得た秘密情報を挙げていた点と、この2方向が対応します。
図の作成:Remogu編集部。契約の位置関係を整理した概念図で、統計データではありません
図の中央にいるのは自分です。左右のどちらの約束も、自分が守る側に立ちます。そのため、副業先の契約書を受け取ったら、その中の秘密保持や競業避止の条項と、本業の規程や契約の条項を並べて読む手順が必要になります。
専属の条項は、副業先の契約に入っている場合に、他の仕事との掛け持ちに関わります。本業を続けながら受ける副業では、この条項の有無で受けられる範囲が変わりうるため、契約を結ぶ前に副業先へ確かめる点になります。
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6. 発明・成果物の扱いを受ける前に決める

成果物の帰属は契約で決める項目
研究開発の副業では、受けた仕事の中で何かを作り出す場面が出てきます。解析のスクリプト、試作の設計、報告書の図表などが当たります。作ったものが誰のものになるのかは、仕事を始める前に決めておく項目です。
ここでは、発明や成果物の権利について、どちらのものになるという結論は書きません。本業の規程に、発明や成果物の扱いが定められていることがあります。副業先との契約にも、成果物の扱いが書かれていることがあります。両方を確かめてから受ける、という順番を守ります。
迷ったときは、本業の窓口や専門家に確かめます。自分で結論を出して仕事を始めると、あとから本業と副業先の双方に説明が必要になる場面が出てきます。早い段階で確かめておけば、その説明の手間を先に減らせます。
決める項目と確かめる相手
決める項目は5つに分けると整理しやすくなります。次の表の「確かめる相手」は書き手の見立てで、組織や契約によって変わります。相手が違うと、尋ねる順番も変わるため、表の順に上から確かめていくと漏れが出にくくなります。
| 決めること | 確かめる相手 |
|---|---|
| 成果物の権利の帰属 | 副業先 |
| 本業の規程にある発明・成果物の扱い | 本業の窓口 |
| 持ち込む既存の知見の範囲 | 本業の窓口と副業先の双方 |
| 副業中に生まれたアイデアの扱い | 副業先と本業の窓口 |
| 実績として公表できる範囲 | 副業先 |
とくに、持ち込む既存の知見の範囲は、後から揉めやすい項目です。自分が副業の前から持っていた手法と、副業の中で新しく作ったものを、契約の段階で分けて書き出しておくと、あとで説明がしやすくなります。実績として公表できる範囲も、副業先に確かめてから決めます。
7. 本業の組織と範囲をすり合わせる順番
受ける前にたどる4つの手順
ここまでの内容を順番に並べ直すと、4つの手順になります。最初に本業の規程と契約を読み、次に副業の仕事の中身を書き出します。そのうえで本業の窓口に届け出て確かめ、最後に副業先と条項を決めます。この順番は書き手の見立てです。
図の作成:Remogu編集部。すり合わせの手順を整理した概念図で、統計データではありません
3番目の手順で届け出る際は、2番目で書き出した仕事の中身を、そのまま見せられる形にしておきます。本業の窓口にとっても、判断の材料が具体的であれば、業務内容を確認したうえで判断する組織の例のように、中身を見たうえでの判断につながりやすくなります。
離れた分野から始めるという選び方
分野が離れた仕事や、公開済みの知見で足りる仕事から始めると、すり合わせが短くて済みます。本業の未公開の情報に触れる場面が少なく、本業の窓口に説明する内容も軽くなるからです。これも書き手の見立てで、読者の本業の規程によって事情は変わります。
冒頭の打ち合わせの場面に戻ると、「近い分野なので経験を活かしていただけます」という言葉は、依頼する側の正直な評価でしょう。その評価に応えるかどうかを決める前に、手順を一つずつたどれば、返事の手が止まる時間は短くなります。受けてよい範囲は、仕事の中身より先に、本業の規程と契約で確かめます。
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8. よくある質問
本業と同じ分野の副業は受けられませんか
受けられるかどうかは、本業の規程と、本業の組織の判断で決まります。同じ分野だから受けられない、あるいは受けられる、と一律には言えません。同じ解説資料に載る企業の取組例の1つのように、副業の業務内容を確認したうえで判断する組織もあります。まず本業の窓口に、仕事の中身を書き出して確かめます。
副業で思いついた発明やアイデアは誰のものになりますか
この記事では、どちらのものになるという結論は書きません。本業の規程と副業先の契約の両方で扱いが決まっていることがあるので、受ける前に両方を確かめます。迷う場合は、本業の窓口や専門家に相談します。
論文や学会で公開済みの内容なら副業で使ってよいですか
書き手の見立てでは、公開済みの範囲と、公開していない周辺のデータやノウハウを分けて考えます。論文に書かれた範囲は、公開済みの知見として扱える場面があります。一方で、論文の背後にある実験の記録や試行の経緯は、公開していないことがあります。どちらの扱いになるかは、本業の規程も合わせて確かめます。
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研究開発エンジニアの副業は、本業の規程・営業秘密・成果物の帰属の3点を確かめてから受けると、本業とぶつかりにくくなります。本業と分野が離れた仕事も含め、フルリモートの業務委託案件から探してみてください。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」(2025年3月・2026年10月確認)
*2 情報処理推進機構「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」(2025年8月29日・2026年10月確認)
*3 工業所有権情報・研修館「知財戦略エキスパート」(2026年10月1日・2026年10月確認)
*4 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2026年1月・2026年10月確認)