優越的地位の濫用は業務委託でどう判断する?取引依存度と正常な商慣習で見る条件
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 取引先が大企業でなくても地位が優越していると見られる理由と、ガイドラインが挙げる4つの考慮要素
- 「どこもそうしている」と言われたときに、業界の慣行がそのまま理由にならない根拠と、不利益の中身を見る手がかり
- 公正取引委員会の令和7年度の対処状況と、要求を受けたときに自分で見当を付ける順番
月末の定例の最後に、取引先からこう切り出されました。「来月から検証環境の費用はそちら持ちでお願いします。どこもそうしていますから」。返事を保留したまま席に戻っても、この要求をどう受け止めればよいのか分かりません。優越的地位の濫用という言葉は聞いたことがあっても、業務委託の自分の取引に当てはまるのか、判断の手がかりがない状態です。断って取引を失うのは怖く、かといって黙って受けるのも引っかかります。
その手がかりになるのが、公正取引委員会などが示すフリーランス向けのガイドラインです。この記事では、地位の優越、不利益の中身、正常な商慣習の3つを順に見ていきます。濫用かどうかは、相手の大きさではなく、断れない理由と不利益の中身で見ます。
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1. 優越的地位の濫用を判断する3つの考え方
ガイドラインが前提にしている格差
公正取引委員会などのフリーランス向けガイドラインは、企業組織である発注事業者とフリーランスとの間に、取引条件について情報量や交渉力の面で格差があるとの考え方を示しています1。個人で受けている業務委託の取引は、まさにこの前提の上にあります。契約の中身を細かく決めるときも、条件を見直すときも、情報を多く持つのは発注する側です。
ただし、格差があるからといって、取引先の要求がすべて問題になるわけではありません。費用や作業の負担を取引先と分け合う話は、業務委託の現場では日常的に出ます。問題になり得るのは、格差を背景にして、本来なら受け入れない条件を受け入れさせる場合です。そこで、判断を3つの段に分けて考えます。
地位・利用・不利益の3段で見る
1段目は、取引先の地位が自分との関係で優越しているかどうかです。2段目は、その地位を利用して要求しているかどうか。3段目は、要求の中身が正常な商慣習に照らして不当な不利益になっていないかどうかです。この3つの順に見ると、感覚的な「納得がいかない」を、確かめられる項目に置き換えられます。
冒頭の「検証環境の費用はそちら持ち」という要求も、いきなり当たるか当たらないかを決める必要はありません。最終的な判断は、公正取引委員会が個別の事案ごとに行うものです。自分にできるのは、3段のどこが確かめられていて、どこが分からないのかを整理するところまでです。
図の作成:Remogu編集部。ガイドラインの考え方を整理したもので、統計データではありません
では、1段目の地位の優越は、何を手がかりに見ればよいのでしょうか。
2. 取引先の地位が優越しているかを見る
絶対的に優越している必要はない
ガイドラインの別紙3は、発注事業者の地位が優越しているというためには、市場支配的な地位やそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、フリーランスとの関係で相対的に優越していれば足りるとしています1。基準は取引先の企業規模ではなく、自分との関係です。
そのため、規模の小さな会社だから当たらない、と決めつけることはできません。逆に、大きな会社だから当たる、という話でもありません。自分の仕事の入り口をその取引先が握っているか、別の取引先に移る余地があるかといった、自分との関係の側から見ていきます。
総合的に考慮される4つの要素
ガイドラインの別紙3は、優越的地位の判断にあたって、フリーランスの発注事業者に対する取引依存度、発注事業者の市場における地位、フリーランスにとっての取引先変更の可能性、その他取引の必要性を示す具体的事実を総合的に考慮するとしています1。4つのうち1つでも当てはまれば該当する、という書き方ではありません。
下の表は、4つの要素を、エンジニアが自分の取引で確かめるときの例に置き換えたものです。右の列は書き手の見立てで、ガイドラインに書かれた基準ではありません。点数をつけて数えるのではなく、状況を整理する材料として使います。
| 考慮される要素 | 自分で確かめる例(見立て) |
|---|---|
| 取引依存度 | 売上のうち、その取引先が占める割合を見ます |
| 市場における地位 | その取引先が、業界や取引相手の中でどのような立場にあるかを見ます |
| 取引先変更の可能性 | 別の取引先の案件に、すぐ移れる状況かを見ます |
| 取引の必要性を示す具体的事実 | その取引先との取引を続ける必要を、具体的な事情から見ます |
表の左の4つは、並べると別々の話に見えますが、実際には重なり合います。たとえば取引依存度が高い状態は、取引先を変える余地が小さい状態と結びつきます。「断れない理由」は、こうした要素のどれかに表れます。
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地位の優越を確かめたら、次は要求の中身が、どのような不利益になるかを見ます。
3. 不利益の中身を見る

返品の類型にある「計算できない不利益」
ガイドラインは、成果物の返品について、どのような場合にどのような条件で返品するかが明確になっておらず、フリーランスにあらかじめ計算できない不利益を与える場合などは、優越的地位の濫用として問題となるとしています1。なお、ここでは発注事業者が優越的地位にあることが前提です。
この説明は返品という行為の類型についてのものです。ほかの行為にそのまま当てはめて、当たると断定するわけにはいきません。それでも、不利益の中身を見るときの手がかりにはなります。条件が事前に明確になっていたか、負担の大きさを見積もれる状態だったかを見る、という視点です。
合意の有無で負担を見分ける見立て
この手がかりを、書き手の見立てとして冒頭の場面に当てはめてみます。契約の段階で、検証環境の費用をどちらが持つかが決まっていて、おおよその額も見積もれていたなら、負担はあらかじめ計算できます。一方、後から持ち出されて、いくらになるかも分からないなら、計算できない負担です。
ただし、これはガイドラインが費用負担の要求そのものを類型として挙げたものではありません。返品の類型の言葉を借りて考える見立てです。合意があったかどうか、金額が見通せるかどうかを、次の一手を考える材料にします。
図の作成:Remogu編集部。書き手の見立てを整理したもので、統計データではありません
仕様の変更ややり直しの費用を誰が持つかは、別の記事で詳しく扱っています。作業の追加を求められたときの考え方は仕様変更ややり直しの費用負担、報酬を後から下げる話は報酬を後から下げられたときを見てください。次は、冒頭の「どこもそうしています」という言葉を取り上げます。
4. 「どこもそうしている」は理由にならない
正常な商慣習が意味するもの
ガイドラインの別紙3は、「正常な商慣習」を、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものとしています。さらに、現に存在する商慣習に合致しているからといって、直ちにその行為が正当化されることにはならない、とも述べています1。
つまり、業界で広く行われていることと、正常な商慣習であることは、同じ意味ではありません。判断の立場は、業界の都合ではなく、公正な競争秩序の維持・促進です。取引先から「どこもそうしています」と言われても、それだけで要求の正しさが裏づけられたわけではありません。
現にある慣行と正常な商慣習の違い
下の表は、ガイドラインの記載をもとに、2つの言葉を判断の立場と正当化の面から並べたものです。現に存在する商慣習は、実際に行われている事実を指します。正常な商慣習は、その事実のうち、公正な競争秩序の立場から是認されるものだけを指します。
| 項目 | 現に存在する商慣習 | 正常な商慣習 |
|---|---|---|
| 何を指すか | 実際に行われている取引のやり方 | 公正な競争秩序の立場から是認されるもの |
| 判断の立場 | 実際にそうなっているという事実 | 公正な競争秩序の維持・促進 |
| その行為の正当化 | 合致していても、直ちには正当化されません | 是認されるものとして判断されます |
とはいえ、よくある慣行がすべて問題になる、と読む必要もありません。見るのは、その慣行が公正な競争秩序の立場から是認できるかどうかです。次は、公正取引委員会が実際にどう対処しているかを確かめます。
5. 公正取引委員会による対処の状況
令和7年度に行われた注意の件数
公正取引委員会の令和7年度の独占禁止法違反事件の処理状況によると、優越的地位の濫用につながるおそれがある行為に対して、27件の注意が行われました2。ガイドラインの考え方が、実際の取引の場面で運用されていることを示す数字です。
この件数が表しているのは、優越的地位の濫用につながるおそれがある行為への注意の数です。個々の事案の中身や、取引の相手がどのような立場の事業者だったかは、この数字からは分かりません。フリーランスの取引やIT業界に限った件数として読むことはできません。
注意という対処の位置づけ
下の表は、公表された数字を、読み取れる範囲に絞って並べたものです。注意は、優越的地位の濫用につながるおそれがある行為に対して行われた対処です。濫用そのものがあったと認められた件数とは別の数字として読みます。
| 年度 | 対処の種類 | 対象となった行為 | 件数 |
|---|---|---|---|
| 令和7年度 | 注意 | 優越的地位の濫用につながるおそれがある行為 | 27件 |
この数字を、自分の取引に重ねて読むときは慎重さが要ります。公正取引委員会が個別の事案ごとに判断していることを踏まえ、数字は「この種の行為に対して実際に対処が行われている」という確認にとどめます。自分の要求が当たるかどうかは、3つの考え方で整理していきます。
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では、実際に要求を受けたとき、何から順に確かめればよいのでしょうか。
6. 自分で見当を付ける順番

地位・不利益・商慣習を順に確かめる
ここまでの3つの考え方を、要求を受けたときの確認の順番に並べ直すと、次のようになります。ガイドラインの書き方ではなく、書き手の見立てとしての順番です。
まず、取引先の地位です。相対的に優越していれば足りるので1、取引依存度や取引先を変えられるかどうかなど、4つの要素1を自分の状況に当てはめて整理します。次に、要求の中身です。事前の合意があったか、負担の大きさを見積もれるかを見ます。
そして、取引先が挙げる理由を見ます。「どこもそうしている」は、直ちに正当化の理由にはなりません1。3つを確かめても、当たるかどうかを自分で決めることはできません。そのため、最後の手順として、見当を付けた材料を残しておきます。
要求の記録を残す
記録するのは、要求を受けた日時、要求の内容、事前の合意があったかどうか、の3点です。メールやチャットの文面が残っていれば、そのまま保存しておきます。口頭で言われたときは、その日のうちに、日時と内容をメモに書き残します。
これも書き手の見立てです。記録があれば、自分の中で状況を整理できますし、後から相談の場に出すときにも、何が起きたかを順に説明できます。冒頭の費用負担の話なら、いつ誰からどんな言い方で求められ、契約書に費用の定めがあったかを書き留めます。
図の作成:Remogu編集部。書き手の見立てを整理したもので、統計データではありません
要求を受けてから動くだけでなく、受ける前の備えも考えておきたいところです。
7. 言い出す前に整えておくこと
取引依存度を下げる備え
ガイドラインが考慮する要素のうち、自分で動かせるのは取引依存度と、取引先を変えられる可能性です1。売上の大半を一つの取引先に頼っていると、その取引先を失う怖さが、そのまま断れない理由になります。これは書き手の見立てです。
一方、複数の取引先と取引していれば、一社の要求に納得がいかないときも、別の取引先との仕事が続きます。要求に応じるかどうかを、取引を失う怖さに左右されずに考えやすくなります。取引依存度を下げておくことが、断れない理由を減らす方法の一つです。
図の作成:Remogu編集部。書き手の見立てを整理したもので、統計データではありません
条件を協議する場面への備え
取引先に条件の見直しを切り出す場面は、要求を受けるときだけではありません。報酬の値上げを伝えるときの進め方は、値上げの切り出し方で詳しく扱っています。要求を受ける側から、条件を提案する側へ立場を変えて考えるときに役立ちます。
取引先を複数持つ備えを進めるなら、新しい取引先と出会う入口が要ります。Remogu(株式会社LASSIC運営)は、リモートワーク案件特化のエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です。場所に縛られず案件を探せるので、取引先を一つに偏らせない選択肢を持ちやすくなります。まずは登録して、自分の経験に合う条件を確かめてみるところから始められます。
冒頭の「どこもそうしていますから」という一言を受けても、返事を急ぐ必要はありません。濫用かどうかは、相手の大きさではなく、断れない理由と不利益の中身で見ます。その見方を持って、保留していた返事に向き合ってみてください。
8. よくある質問
取引先が小さな会社でも優越的地位の濫用に当たりますか
ガイドラインは、発注事業者の地位が優越しているというためには、絶対的に優越した地位である必要はなく、フリーランスとの関係で相対的に優越していれば足りるとしています1。会社の規模だけで決まるわけではありません。ただし、当たると断定できるものでもなく、最終的には個別の事案ごとに判断されます。
業界の慣行だと言われたら受け入れるしかありませんか
そうとは限りません。ガイドラインは、現に存在する商慣習に合致しているからといって、直ちにその行為が正当化されることにはならないとしています1。慣行であることを理由に、要求の中身を確かめずに受け入れる必要はありません。
当たり得ると思ったら、まず何をすればよいですか
書き手の見立てとしては、まず要求を受けた日時と内容、事前の合意の有無を記録に残します。そのうえで、公正取引委員会などの相談窓口に相談する流れが考えられます。記録があれば、状況を順に説明できます。一人で抱え込まず、第三者に状況を伝えるところから始めます。
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優越的地位の濫用かどうかは、取引先の地位と不利益の中身を分けて見ると見当が付けやすくなります。取引条件を確かめながら、リモートで受けられる案件を探してみてください。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2026年1月1日・2026年10月確認)
*2 公正取引委員会「令和7年度における独占禁止法違反事件の処理状況について」(2026年6月8日・2026年10月確認)