競業避止義務はフリーランスもどこまで受ける?契約終了後の制限で確かめる期間と範囲
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 競業避止義務が契約終了後の義務であることと、契約中に他の発注事業者への提供を制限する専属義務との違い
- 合理的に必要な範囲なら直ちには問題とならないことと、問題となる3つの条件がそろった場合の考え方
- 育成の費用を回収し終えた後に課す想定例と、契約前に条項を期間・対象・地域で読む書き手の見立て
半年続いた業務委託の案件で、更新の契約書が届きました。読み進めると末尾近くに「本契約終了後、甲と競合する事業者から同種の業務を受託しない」という一文が増えています(契約書の文面は架空の例です)。次に受けたい案件は同じ業界で、フリーランスとして競業避止義務をどこまで受けるのか、手が止まってはいませんか。条項は、いつまで・何を・どこでの3つで読みます。
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1. 契約終了後に及ぶ競業避止義務
ガイドラインが示す定義
公正取引委員会の「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、競業避止義務の定義を置いています。発注事業者に対する役務等の提供に係る契約の終了後に、フリーランスが自ら当該発注事業者と競合する事業を行わないか、競合する者に対して一定期間役務等の提供を行わないことを内容とする義務です1。
中身は2通りに分かれます。1つは、自ら競合する事業を行わないこと。もう1つは、競合する者に一定期間、役務等の提供を行わないことです。「一定期間」が付いているのは後者で、定義の言葉にすぎず、期間の長さの基準を示すものではありません。
たとえば冒頭の架空の文面は、競合する事業者から同種の業務を受けないという書き方です。定義に照らすと、2つ目の内容を契約に書き込んだ形として読めます。これは文面と定義を並べた書き手の見立てで、条項の扱いを判定するものではありません。
専属義務との線の引き方
同じガイドラインは、競業避止義務とは別に専属義務も定めています。他の発注事業者に対するフリーランスの役務等の提供を制限し、自己とのみ取引をする義務です1。定義の言葉に「契約終了後」と付いているのは競業避止義務だけです。
専属義務の定義は、他の発注事業者への提供を制限する内容なので、契約が続いている間の話として読めます。ただしこれも定義の文言からの読み取りです。そのため、契約の途中で他の案件を並べることを制限される場面は専属義務の側の話で、「掛け持ちの禁止=競業避止義務」とは書けません。
契約中の掛け持ちの制限や実績の公表については、案件の掛け持ちを制限されたら?専属義務と実績の公表の考え方で扱っています。この記事は、契約が終わった後の約束に絞ります。
二つの義務の見比べ
競業避止義務と専属義務は、どちらも「他の取引先とどう付き合うか」に関わる約束です。それでも、いつの話か、何を制限するのかが定義の上で分かれています。競業避止義務は契約終了後の約束で、競合する事業を自ら行わないか、競合する者への提供を一定期間行わない内容です。専属義務は他の発注事業者への提供そのものを制限し、自己とのみ取引をする内容です。
| 義務 | いつの話か | 中身 |
|---|---|---|
| 競業避止義務 | 契約終了後 | 自ら競合する事業を行わない、または競合する者に一定期間役務等の提供を行わない |
| 専属義務 | 契約中の話として読める | 他の発注事業者への提供を制限し、自己とのみ取引をする |
契約書にこの種の条項があったら、まずどちらの義務の書き方なのかを見分けます。次は、こうした義務を発注事業者が置くこと自体を、ガイドラインがどう扱っているかです。
2. 合理的に必要な範囲の内側と外側
直ちには問題とならない場合
同じガイドラインは、発注事業者が合理的に必要な範囲で秘密保持義務・競業避止義務・専属義務を設定することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではないとしています1。「これらの義務」は競業避止義務だけを指すのではなく、この3つの義務を指します。
注目したいのは「直ちに」の一語です。まったく問題にならないと書いているのではなく、合理的に必要な範囲にとどまるなら、直ちには独占禁止法上の問題とならない、書き方です。範囲の中にあるか外にあるかで、見え方が変わります。
条項が置かれる事情の見立て
発注事業者が条項を置く事情としては、営業上の大事な情報を守りたい場合などが考えられます。これは書き手の一般的な見立てで、出典が目的を述べているわけではありません。
一文ずつ「何を守るための範囲なのか」を読むと、その条項が合理的に必要な範囲の内側にあるのか、外へはみ出していそうなのかを考える手がかりです。ただし、個々の条項がどちらに当たるかは、この記事では判定しません。判断するのは行政や裁判所です。
図の作成:Remogu編集部。公正取引委員会のガイドラインの考え方を整理したもので、統計データではありません
では、線の外側が問題となるのはどんな条件のときなのでしょうか。
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3. 問題となる3つの条件

条件の並び
ガイドラインは、次の3つがそろった場合に、優越的地位の濫用として問題となるとしています1。
- 取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、
- 一方的に、合理的に必要な範囲を超えて秘密保持義務・競業避止義務・専属義務を課す場合であって、
- そのフリーランスが今後の取引に与える影響等を懸念して、それを受け入れざるを得ない場合
図の作成:Remogu編集部。公正取引委員会のガイドラインの考え方を整理したもので、統計データではありません
条件の読み方
この3つは、そろった場合の考え方です。1つだけを取り出して「範囲を超えていたら問題」と読む形ではありません。主体も限られていて、取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が対象です。
3つ目の「今後の取引に与える影響等を懸念して」は、継続案件の更新の場面を思い浮かべやすい言葉です。更新を断ると次の話が来なくなるのでは、と考える場面で条項を受け入れてしまう形が、条件の並びの終わりに置かれています。これは書き手の見立てで、読者の契約が当てはまるかどうかを示すものではありません。
そのため、手元の契約書について「この条項は問題となる」「問題とならない」と決めることは、この記事ではしません。記事が示すのは、条件の並びと、契約前に条項のどこを読むかという考え方までです。次に、ガイドラインが挙げている想定例を1つ見ます。
4. 育成費用の回収後に課す想定例
ガイドラインが挙げる想定例
ガイドラインは、優越的地位の濫用として問題となり得る想定例の一つに、既にフリーランスの育成に要する費用を回収し終わったにもかかわらず、その費用の回収を理由として一方的に競業避止義務や専属義務を設定することを挙げています1。
ここで押さえたいのは、これが想定例であって、個別の契約の判定ではない点です。「費用の回収が終わっていれば、競業避止義務は課せない」と読む形ではありません。ガイドラインは、問題となり得る形の一つとして、この場面を示しています。
エンジニアの契約に置き換えて読む
エンジニアの業務委託で考えると、研修や立ち上げの支援を受けた後に、条項が付く場面が思い浮かびます。ただし想定例の言葉は「育成に要する費用」です。研修や支援の機会が、これに当たるかどうかは分かれ得ます。控えめに読みたいところです。
条項の近くに、その条項を置く理由が書かれているかも見どころです。理由が書かれているときは、その理由が今も続いているのかを読むと、範囲の広さを考える材料です。次は、こうした条項を契約書のどこで何を読むのかを整理します。
5. 契約書の条項を読む4つの観点
期間・対象・地域と見返り
競業避止義務の条項は、短い一文で書かれていることが少なくありません。冒頭の架空の文面のように「競合する事業者から同種の業務を受託しない」とだけ書かれていると、一読しただけでは範囲が見えにくくなります。そこで、条項を期間・対象・地域の3つに分けて読みます。ここに見返りを加えた4つが、下の表の観点です。
この4つは、ガイドラインが示した読み方ではありません。契約書の一文を、自分の次の案件と重ね合わせやすくするための、書き手の整理です。条項の範囲が広いか狭いかを判定する基準でもありません。
| 読むところ | 確かめること |
|---|---|
| 期間 | 契約終了後のいつまでの話か。期間そのものが書かれているか |
| 対象 | 「競合」の言葉が何を指すか。同じ顧客か、同じ業界全体か、同じ技術か |
| 地域 | 地域の限定が書かれているか。リモートの案件で意味を持つ書き方か |
| 見返り | 制限に対する手当の定めがあるか |
とくに対象は、同じ一語でも読み方が大きく変わります。「競合」が同じ顧客との直接の取引だけを指すのか、同じ業界全体を指すのかで、次に受けたい案件との重なり方が違ってきます。書かれていなければ、書かれていないこと自体が、契約前に確かめる材料になります。
地域を読むときの注意
地域については、ガイドラインにも、この記事で使っている出典にも、地域の基準を示す記述はありません。以下は書き手の見立てです。リモートで進める案件では、作業する場所で線を引きにくいため、地域の限定が実質的な歯止めにはなりにくいと考えられます。その分、対象がどう書かれているかが、読むうえでの中心になります。
地域の欄に「日本国内」のような広い書き方があっても、それが何を意味するかは条項ごとに違います。距離や範囲の目安をここで示すことはしません。契約書に書かれた言葉を、そのまま次の案件の場面に当てはめて読みます。
条件を書面で明確にする理由
公正取引委員会のガイドラインは、発注事業者が発注時の取引条件を明確にする書面を交付しない場合や、書面に取引条件を明確に記載しない場合について、発注後に取引条件を一方的に変更等しやすくなるとしています1。競業避止の条項に限った記述ではありませんが、条件を書面で明確にしておく理由を示す考え方です。
そのため、期間・対象・地域・見返りのうち、曖昧に感じた点は、契約前に書面の文言に残すよう相談する材料です。口頭で聞いた説明だけでは、後から何をどう取り決めたのかを確かめる手がかりが残りません。契約が終わるときの取り決め方については、契約の終わり方を決める条項の考え方でも扱っています。
では、条項の読み方を、労働法の考え方に頼って決めてよいのでしょうか。
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6. 労働法の考え方を当てはめない理由

研究者の論考が示す整理
日本労働研究雑誌 2024年12月号の論考は、フリーランスとして働く者に対する競業避止義務には、労働法の規律は及ばず、公正な競争を阻害するという観点から独占禁止法の規律が及ぶと整理しています2。これは研究者の論考であり、行政の見解ではありません。
これまでの節で読んだガイドラインの考え方は、この整理の独占禁止法の側にあたります。優越的地位の濫用として問題となる3つの条件も、公正な競争を阻害するという観点から置かれた考え方として読めます。ただし、論考とガイドラインのつながりを説明するこの一文は、書き手の見立てです。
図の作成:Remogu編集部。日本労働研究雑誌 2024年12月号の論考の整理を図にしたもので、行政の見解ではありません
ネットで見かける目安との距離
インターネットでは、「期間はこのくらいまで」といった目安を見かけることがあります。これは書き手の見立てですが、そうした目安には、別の前提の話が混ざっていることがあります。論考が整理しているのは、規律が及ぶ法分野の違いまでで、期間の線を示すものではありません。ガイドラインの定義にある「一定期間」も、長さの基準ではありません。
そのため、この記事は期間の年数も、地域の距離も書きません。示せるのは、契約書の条項を期間・対象・地域で読むという、読み方の枠組みまでです。次の節では、読んだ結果をどう契約前の相談につなげるかを整理します。
7. 契約前に書き方を話し合う
秘密保持で足りるかという問い
参考になる記述が、内閣官房と公正取引委員会が令和7年9月30日に示した芸能分野の指針にあります。実演家と芸能事務所などの取引が対象で、エンジニアの業務委託に直接当てはまるものではありません。この指針は、営業秘密等の漏えいを防止する手段として、競業避止義務等のほかに、実演家の活動をより制限しないものとして、秘密保持契約の締結も考えられるとしています3。
書かれているのは「考えられる」という強さです。競業避止義務は不要だという意味ではありません。また、エンジニアの契約に当てはめる根拠でもなく、参考にとどめます。それでも、守りたいものが営業上の情報なら、秘密保持の条項で足りるのかという問いを立てる材料にはなります。秘密保持の範囲の読み方は、秘密保持の範囲の考え方でも扱っています。
相談の材料を手元に置く
範囲が広いと感じたとき、契約前に何を話し合えばよいのでしょうか。下の表は、そのための相談の材料です。いずれも書き手の見立てで、「この書き方なら問題ない」と示すものではありません。
| 相談の材料 | 例 |
|---|---|
| 対象を狭く書く | 「当該発注事業者の顧客との直接取引」のように、対象を具体的に書いてもらう |
| 期間を書く | 期間が書かれていない場合に、書面に書き加えられるかを尋ねる |
| 秘密保持との関係 | 秘密保持の条項で足りるのかを確かめる |
| 更新時の読み直し | 契約を更新するたびに、条項を読み直す |
相談は、条項を削ってほしいという要求の形でなくても進められます。「ここでいう競合とは、どの範囲を指しますか」と尋ねるだけでも、対象の書き方を話し合う入口になります。冒頭の更新の場面なら、手が止まった一文について、まず意味を確かめるところから始められます。
契約前の確認の順番
図の作成:Remogu編集部。契約前の確認の流れを書き手の見立てで整理したもので、統計データではありません
3つで読む姿勢に戻る
競業避止義務は契約が終わった後の約束で、契約の途中の専属義務とは別のものです。合理的に必要な範囲なら直ちには問題とならず、3つの条件がそろったときには優越的地位の濫用として問題となる、というのがガイドラインの枠組みでした。手元の条項がどこに当たるのかは、この記事では判定していません。
半年続いた案件の更新で届いた一文の前で、手を止める時間は無駄ではありません。いつまで・何を・どこでの3つで読み、気になった点を契約前の相談の材料に変えます。そこまで読んだうえで、次の案件を考えれば、手が止まる場面は少なくなります。
Remogu(株式会社LASSIC運営)は、リモートワーク案件特化のエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です。条項を読む目を持ったうえで、次の案件を場所に縛られない働き方から探してみてください。
8. よくある質問
契約書に競業避止の条項が無ければ、契約終了後の制限はありませんか
契約書に書かれていなくても、制限が一切無いと言い切れるわけではありません。別の書面で条件が決まっていることもあり得ます(書き手の見立てです)。取引条件を書面に明確に記載しないと発注後に一方的に変更等しやすくなる、というガイドラインの考え方もあるため1、条件は書面で残しておく流れを取ります。
契約中の掛け持ちを止められるのも競業避止義務ですか
ガイドラインの定義では、競業避止義務は契約終了後の義務で、専属義務は他の発注事業者への提供を制限して自己とのみ取引をする義務として、別に定められています1。そのため、契約中の掛け持ちの制限は、専属義務の側の話として読むのが定義に沿います。掛け持ちについては、案件の掛け持ちを制限されたら?専属義務と実績の公表の考え方で扱っています。
条項が広すぎると感じたときの相談先はありますか
この記事では、特定の窓口は取り上げていません。書き手の見立てとして、契約前の段階で、発注事業者と条項の書き方を話し合うことを勧めます。期間・対象・地域のうち気になった点を、尋ねる形で伝えれば、対象の書き方を見直す余地があるかを確かめる入口です。
リモートワーク案件をお探しの方へ
Remoguは、株式会社LASSICが運営するITエンジニア・デザイナー専門のリモートワーク案件紹介サービスです。フルリモート・ハイブリッドの案件から、スキルに合うものを探せます。
競業避止の条項は、期間と対象と地域を契約前に読み、範囲が広すぎると感じたら話し合いの材料にできます。条件を確かめやすいフルリモートの案件から探してみてください。
会員登録無料 / 案件閲覧・相談は無料
※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 公正取引委員会「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2026年1月1日・2026年10月確認)
*2 日本労働研究雑誌「競業避止義務と労働移動の制限」(2024年12月1日・2026年10月確認)
*3 公正取引委員会「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(2025年9月30日・2026年10月確認)