フリーランスエンジニアの「直接契約」で変わること|発注側の義務と確かめる条件
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 直受け・直契約・引き抜きがいずれも「誰と契約を結ぶか」の話であることと、フリーランス法で発注側の義務を負う相手の見分け方
- 報酬の支払期日が給付の受領日から60日以内のできる限り短い期間で決まる仕組みと、1対1の打診で条件を確かめる進め方
- 6か月以上続く契約を終えるときの30日前の予告と、引き抜き禁止の条項が気になるときに読む書類・相談先
参画して半年ほどたった案件の定例が終わり、画面を閉じようとしたとき、エンドの担当者から「次の契約は、うちと直接にしませんか」と声をかけられました。フリーランスエンジニアの業務委託では、直受けや直契約と呼ばれる話ですが、仲介を外したあとに条件や支払いを守る仕組みがどうなるのかは、その場では見えません。結論を先に言えば、直接契約で変わるのは、発注側の義務を負う相手です。返事をする前に何を確かめればよいかを、順に見ていきます。
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1. 直受け・直契約・引き抜きが指すもの
3つの言葉を契約の相手で束ねる
直受けは、仲介やエージェントを通さず、エンドの企業から直接仕事を請けることを指して使われます。直契約は、同じ形を契約の側から呼んだ言葉です。引き抜きは、いまの案件に仲介が入っているのに、エンドが直接の契約を持ちかける場面で聞かれます。どれも法律上の用語ではなく、現場の呼び名です。
この記事では、3つの言葉を「誰と契約を結ぶか」が変わる話として束ねます。呼び名は場面ごとに違っても、契約書に名前が載る相手が変わる点は共通しているからです。これは書き手の整理であり、3つの言葉の定義を示すものではありません。
ただし、「引き抜き」という語感は、人を奪い合う話のように聞こえます。フリーランスは業務委託として仕事を請けており、どこかの組織に属しているわけではありません。そのため、人の移動ではなく、契約の結び方の違いとして見るほうが、判断の材料を集めやすくなります。
契約を結ぶ相手の違い
図の作成:Remogu編集部。契約を結ぶ相手の違いを整理したもので、統計データではありません
上段は、商流の中に仲介が入り、契約が2か所に分かれる形です。下段の直接契約では、エンドとフリーランスの間に契約が1本あるだけです。線で結ばれた相手が変わると、その相手がフリーランス法の上でどんな義務を負うのかも変わります。
一方、商流が報酬にどう関わるかは、この記事では扱いません。報酬の差を知りたいときは、商流の仕組みを整理した記事を参照してください。ここで見るのは、契約の相手が変わったときに、義務を負う相手がどう変わるかだけです。
では、契約の相手が変わると、フリーランス法の上で何が変わるのでしょうか。
2. 発注側の義務を負う相手
フリーランス法が発注事業者に課す義務
フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、令和5年5月12日に公布され、令和6年11月1日に施行されました。公正取引委員会のQ&Aは、この法律が発注事業者に対し、フリーランスに業務委託をした際の取引条件の明示等を義務付けていると説明しています1。
義務を負うのは、業務委託をする側の事業者です。そのため、直接契約の話を受けたときは、契約の中身を読む前に、誰が業務委託をする側に立つのかを押さえる必要があります。ここが分からないまま条件の話に入ると、どの義務の話をしているのかが曖昧になります。
仲介が入るときの考え方
公正取引委員会のQ&Aは、マッチングサービスを提供する事業者が受注側と業務委託契約を結んでおらず、注文書の取次ぎや報酬の請求・支払などの事務手続の代行にとどまる場合は、仲介にすぎないとしています。この場合、受注側との関係で「業務委託事業者」になるのは発注事業者だと答えています1。
これに対して、同じQ&Aには、実質的に業務委託をしている場合はマッチング事業者が業務委託事業者になる、とも書かれています1。仲介が入っていても、その役割によって義務を負う相手は分かれます。個別の事業者がどちらに当たるかは、この記事では判断しません。
契約の形ごとの業務委託事業者
表1は、契約の形ごとに、業務委託事業者になる相手を並べています。上の2行は公正取引委員会のQ&Aの回答をそのまま写したもので、3行目は、その考え方から導いた書き手の推論です。Q&Aが直接契約の場面を直接取り上げているわけではないので、根拠の欄で区別しています。
| 契約の形 | 業務委託事業者になる相手 | 根拠の位置づけ |
|---|---|---|
| 仲介が、注文書の取次ぎや報酬の請求・支払などの事務手続の代行にとどまる形 | 発注事業者 | 公正取引委員会のQ&Aの回答 |
| 仲介が、実質的に業務委託をしている形 | 仲介の事業者 | 公正取引委員会のQ&Aの回答 |
| エンドとフリーランスが、直接契約を結ぶ形 | エンド | 上の考え方からの書き手の推論 |
3行目の推論は、次のように考えたものです。エンドと直接契約を結ぶなら、間に仲介はいません。フリーランスと契約を結ぶ相手はエンド自身ですから、エンドが業務委託事業者の位置に立つと考えられます。ここでの違いは義務を負う相手が誰になるかであり、どちらの形がよいかを示すものではありません。
次は、報酬の支払期日が、契約の相手によってどう決まるかです。
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3. 報酬の支払期日の決まり方

受領日から60日以内で、できる限り短く
公正取引委員会のQ&Aによると、フリーランス法は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定めるとしています1。読み違えやすいのは、60日が支払いを待たせてよい期間ではない点です。60日は上限で、そのなかでできる限り短く定めることが求められています。
もう一つ、Q&Aは継続している相手との間の変更を取り上げています。業務委託が継続している相手との間で、「60日以内」と定められていることだけを理由に、従前の支払期日より遅い期日を新たに設定する場合です。Q&Aは、これを「できる限り短い期間内」に定めたものとはいえず、法の上で問題になると答えています1。
この回答の対象は、フリーランス法の対象となる発注事業者(特定業務委託事業者)です。仲介から直接契約へ切り替えるときは、いまの支払期日と新しい提案の期日を並べて見る、という使い方ができます。ただし、このQ&Aは継続中の相手との間の変更を扱っており、契約の相手が変わる場面にそのまま当てはまるとは言い切れません。見立てとしては、比べて気づいたら条件を確かめる、にとどめます。
再委託の例外に当たるか
フリーランス法には、再委託の場合の支払期日の例外があります。Q&Aは、発注事業者が元委託者から受けた業務と、フリーランスに委託した業務との間に、業務の関連性と対価の関連性の両方が認められる場合に、「再委託をした場合」に当たると説明しています1。業務だけが関連していても、対価の関連性が無ければ、判断の入り口で当てはまりません。
例外が認められたときの支払期日の中身は、この記事では書きません。気になるときは、再委託と支払期日を扱った記事を参照してください。
エンドが元委託者から受けた業務を、そのままフリーランスに委託する形でなければ、再委託の例外の場面にはなりにくいと考えられます。これは書き手の推論です。仲介を通す案件では、再委託の例外が話に出ることがありますが、エンドと直接契約を結ぶ形では、判断の軸が基本の決まりのほうに寄ります。
出典:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」(2026年8月26日更新)をもとに作成
次は、直接の声かけが1対1になりやすいことが、条件の確かめ方にどう関わるかです。
4. 1対1の打診で条件を確かめる
募集情報の的確表示義務が対象外になる場合
公正取引委員会のQ&Aは、特定の1人の事業者を相手に業務委託を打診する場合を、募集情報の的確表示義務の対象外としています。通常はすでに契約交渉の段階にあり、交渉の中で取引条件を確認・変更できるためです1。反対に、2人以上に打診する場合は、この義務の対象に含まれます1。
対象外になるのは、実質的に1人を相手にする場合です。同じ文面をBccで複数の事業者へ一斉に送るように、実質的には複数を相手にしているなら、対象に含まれます。名目が1人宛てかどうかではなく、実際に誰を相手にしているかで分かれます。
ただし、対象外になるのは募集情報の的確表示義務だけです。フリーランスに業務委託をした際の取引条件の明示等は、別の義務として定められています1。1対1の打診だからといって、条件を示す義務の話まで消えるわけではありません。
条件は交渉の中で書面やメールに残す
直接の声かけは、特定の1人に向けたものになりやすいと考えられます。これは書き手の見立てです。そうだとすると、募集の文面に条件が並ぶのを待つのではなく、交渉の中で自分から条件を確かめる場面になります。
「次は直接で」と口頭で言われただけの段階では、条件はまだ形になっていません。話し合って決まった内容は、書面やメールで示していただき、手元に残しておきます。書面かメールかの形式は、Q&Aの抜粋には書かれていないので、残しやすいほうを選びます。
打診の形ごとの的確表示義務
表2は、打診の形ごとに、募集情報の的確表示義務が対象かどうかを並べています。分かれ目は、相手が実質的に1人か、2人以上かです。ここで見ているのは的確表示義務だけで、取引条件の明示等とは別に数えます。
| 打診の形 | 募集情報の的確表示義務 | 理由 |
|---|---|---|
| 実質的に特定の1人へ打診する | 対象外 | すでに契約交渉の段階にあり、交渉の中で取引条件を確認・変更できるため |
| 2人以上へ打診する(実質的に複数を相手にする場合を含む) | 対象 | 2人以上に打診する場合は、対象に含まれるため |
次は、仲介を通すか直接契約にするかに関わらず、長く続く契約の終わり方です。
5. 長く続く契約の終わり方
6か月以上の契約と30日前の予告
公正取引委員会のQ&Aによると、フリーランス法の対象となる発注事業者(特定業務委託事業者)が6か月以上の期間行う業務委託の契約を解除する場合は、解除日の少なくとも30日前までに予告が要ります。契約を更新しない場合も、この解除に含まれます1。
30日前という言葉は、解除日から30日さかのぼるように読めます。Q&Aが示す数え方は、予告日(当日)から解除日の前日までに30日間を確保する形です。たとえば8月31日に解除するなら、8月1日までに予告が必要だという例が示されています1。
出典:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」(2026年8月26日更新)をもとに作成
予告の対象になるのは、6か月以上の期間行う業務委託です。いま参画している案件の契約期間が6か月以上かどうかは、個別契約に書かれた期間で確かめます。半年ほどたった案件でも、契約期間そのものが半年に届いているとは限りません。
直接契約に切り替えるときの見方
この予告は、フリーランス法の対象となる発注事業者が負う義務です。直接契約でエンドが業務委託事業者の位置に立つなら、終わり方の予告もエンドとの契約で問題になると考えられます。これは書き手の見立てで、エンドが対象となる発注事業者に当たるかどうかは、この記事では判断しません。
予告が要らない例外や、解除の理由の開示を求められる場面は、中途解除の予告を扱った記事で整理しています。この記事で押さえるのは、新しい契約の期間と、終わりの予告についての取り決めを、書面で確かめておく点までです。
次は、直接契約の話に付いてくることのある、引き抜き禁止の条項です。
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6. 引き抜き禁止の条項が気になるとき

条項の有無は書類で確かめる
直接契約の声がかかると、いまの契約に、直接の取引を制限する条項があるのかが気になります。引き抜き禁止や競業避止と呼ばれる条項ですが、その条項が有効かどうか、違反に当たるかどうかは、この記事では判断しません。判断は文言と契約の相手で変わるため、まず手元の書類に何が書かれているかを確かめます。
表3は、確かめる書類と、それぞれで見る点を並べています。個別契約と基本契約、仲介の利用規約、エンドとの秘密保持の取り決めの順です。相談先は、書類を読んでも迷う点が残ったときの行き先として、同じ表に入れています。
| 確かめる書類・相談先 | 見る点 |
|---|---|
| いまの個別契約・基本契約 | 直接の取引を制限する条項の有無、期間、範囲 |
| 仲介の利用規約 | 直接の取引を制限する条項の有無、期間、範囲 |
| エンドとの秘密保持の取り決め | 直接契約に切り替えたあとも続く範囲 |
| フリーランス・トラブル110番 | 就業環境整備の相談先。対象はフリーランスからの相談のみ2 |
| 公正取引委員会・中小企業庁 | 報酬など取引適正化にあたる部分の相談先2 |
仲介の利用規約も、個別契約と同じ点を探す対象に入れます。契約書に条項が無くても、規約側に書かれている場合があるからです。仲介を通す案件の書面で何を確かめるかは、エージェント経由の書面を扱った記事を参照してください。
相談先は内容で分かれる
厚生労働省は、フリーランス法の就業環境整備に関する相談先として、厚生労働省の委託事業で第二東京弁護士会が運営する「フリーランス・トラブル110番」を案内しています2。対象になるのは、フリーランスからの相談だけです。
報酬など、取引適正化にあたる部分の相談先は、公正取引委員会と中小企業庁です2。窓口は就業環境整備と取引適正化で分かれているので、相談の内容に合わせて選びます。条項の読み方に迷うときは、該当の箇所を書き出し、契約の相手に意味を確かめるところから始めます。
次は、これらの確認を、直接契約を受ける前の順番に並べます。
7. 直接契約を受ける前に確かめる順番
契約の相手から条項まで
順番は、契約の相手から始めます。誰が発注側の義務を負うのかが分かると、その後に出てくる条件が、どの義務の話なのかをそろえて読めます1。
次に、取引条件が示されるかを確かめます。フリーランスに業務委託をした際の取引条件の明示等は、発注事業者の義務として定められています1。口頭だけの段階であれば、書面やメールで示していただくよう頼みます。
3番目は支払期日で、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間という決まりに照らして見ます1。4番目は終わり方の予告で、対象となる発注事業者との6か月以上の契約なら、解除日の少なくとも30日前までの予告が要ります1。最後に、いまの契約の条項を読みます。
図の作成:Remogu編集部。確認の順番は書き手の整理で、法令が定める順序ではありません
仲介を通す案件でも使える順番
この順番は、直接契約のためだけのものではありません。仲介を通す案件でも、契約の相手、取引条件、支払期日、終わり方の予告、条項の順に書類を並べれば、同じ確かめ方ができます。直接契約を選ぶ理由にする順番ではなく、どの形の契約でも使える手順です。
なお、対象となる発注事業者に当たるかどうかは、この記事では判断していません。Q&Aの考え方を手がかりにしつつ、迷う点は書面で相手に確かめます。
返事の前に
Remogu(株式会社LASSIC運営)は、リモートワーク案件特化のエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です。仲介を通して案件を探すときも、ここで見た順番で、契約の相手から確かめられます。
定例のあとに「次の契約は、うちと直接にしませんか」と声をかけられたら、その場で答えを出さず、5つの順番で書類を開いてみてください。直接契約で変わるのは、発注側の義務を負う相手です。誰が相手になるのかを先に確かめておけば、返事は条件の話から始められます。
8. よくある質問
口頭で「次は直接で」と言われただけで、条件の書面が無いときはどうすればよいですか
条件を書面やメールで示していただくよう頼みます。フリーランスに業務委託をした際の取引条件の明示等は、発注事業者の義務として定められています1。特定の1人への打診が募集情報の的確表示義務の対象外なのは、交渉の中で取引条件を確認・変更できるからで、取引条件の明示等とは別の話です1。
仲介を通す案件と直接契約の案件を並べて受けてもよいですか
並べて受けてよいかどうかは、この記事では判断しません。書き手の見立てとしては、それぞれの契約の条項と、稼働の取り決めを確かめることから始めます。直接の取引を制限する条項が無いか、稼働の取り決めが重ならないかを、契約書ごとに読みます。
直接契約でトラブルになったときの相談先はどこですか
就業環境整備に関する相談先として、厚生労働省は「フリーランス・トラブル110番」を案内しています。フリーランスからの相談のみが対象です2。報酬など取引適正化にあたる部分は、公正取引委員会と中小企業庁が相談先です2。
リモートワーク案件をお探しの方へ
Remoguは、株式会社LASSICが運営するITエンジニア・デザイナー専門のリモートワーク案件紹介サービスです。フルリモート・ハイブリッドの案件から、スキルに合うものを探せます。
直接契約でも仲介を通す契約でも、誰が発注側の義務を負う相手なのかを最初に確かめると、条件の確認が抜けにくくなります。フルリモートのエンジニア案件から探してみてください。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」(2026年8月26日・2026年10月確認)
*2 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく就業環境整備のポイント」(2026年8月6日・2026年10月確認)