フリーランスの値上げはどう切り出す?労務費転嫁の指針で決める根拠資料と交渉記録の注意点
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 公正取引委員会の労務費転嫁の指針が、12の行動指針として発注者と受注者に求める内容と、情報サービス業が挙がる理由
- 受注側が根拠に使う公表資料と、情報を集める相談窓口、価格交渉の申込み様式(例)が載っている場所
- 情報を集めて根拠を用意し、様式を参考に申し出て、交渉の記録を残すまで、値上げを切り出す順番
同じクライアントとの案件が2年続き、契約更新の時期が近づいてきました。メールの下書きに報酬の値上げをお願いする一文を打とうとして指が止まるのは、何を理由に、どんな形で伝えればよいのかが分からないからです。値上げは、気持ちではなく根拠と記録で申し出ます。その材料を、公正取引委員会の指針をもとに集めていきます。
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1. 値上げを切り出す前に
申し出の土台になる指針
報酬の値上げは、金額を決める前に、申し出の土台を用意する段階があります。その土台として読めるのが、公正取引委員会が示している労務費転嫁の指針です1。
ただし、この指針は受注者全般に向けたものです。フリーランス個人の報酬に当てはめるときは、考え方の参考として読みます。指針がフリーランスの値上げを認めるものだと読み替えないよう、位置づけを先に押さえておきます。
指針の改正時期
公正取引委員会の指針のページには、令和7年12月26日付けの改正の案内が掲載されています1。過去の版をもとにした解説を読むと、現行の内容とずれることがあるため、参照するときは同ページの現行の版を開きます。
では、その指針は何を定めているのでしょうか。次の節で、項目ごとに見ていきます。
2. 労務費転嫁の指針とは
指針の位置づけ
指針の正式名称は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」で、公正取引委員会が示しています。労務費の転嫁に係る価格交渉について、発注者と受注者がそれぞれ取る行動を、12の行動指針に取りまとめた内容です1。
値上げを言い出す側の受注者だけでなく、受け止める側の発注者にも行動が割り当てられている点が特徴です。申し出は、双方の行動がかみ合って初めて価格交渉になります。
指針の項目と中身
表1の項目は、名称、構成、改正、業種への言及、現状の記述、別添の様式です。数字は12の行動指針と6業種の2つだけで、報酬の水準や上げ幅を示す数字は表にありません。業種への言及は、情報サービス業が指針の議論の対象に入っていることを表す記述です。個々のフリーランスの報酬がどう動くかは、この表からは読み取れません。
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 名称 | 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(公正取引委員会) |
| 構成 | 発注者と受注者それぞれの行動を、12の行動指針として整理1 |
| 改正 | 令和7年12月26日付けの改正の案内が掲載1 |
| 業種への言及 | 情報サービス業を含む6業種が、コストに占める労務費の割合の高い業種1 |
| 現状の記述 | 価格転嫁の要請をしていない受注者が多い業種があり、情報サービス業もその一つ1 |
| 別添 | 価格交渉の申込み様式(例)1 |
情報サービス業が挙がる記述
指針では、公正取引委員会の調査で、情報サービス業を含む6業種が、特にコストに占める労務費の割合の高い業種だったとされています1。
一方で、同じ指針には、労務費の転嫁の現状として、そもそも価格転嫁の要請をしていない受注者が多い業種があり、情報サービス業もその一つに挙げられているとの記述もあります1。
注意したいのは、調査の対象が受注者全般であることです。この記述は、フリーランスエンジニアの多くが値上げを言い出せていないと示すものではありません。指針の行動は、発注者側、受注者側、双方に共通するものの3区分に分かれています。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2025年12月)をもとに作成
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3. 受注側に求められる行動
情報を集めてから交渉に臨む
指針は、受注者としての行動の一つに、国・地方公共団体の相談窓口や、中小企業の支援機関(商工会議所・商工会等)の相談窓口などに相談して、積極的に情報を収集し、交渉に臨むことを挙げています1。
つまり、値上げの申し出は、メールを書き出す前の情報収集から始まっています。窓口の使い方は、6節で改めて取り上げます。
根拠の置き方と申し出の時期
同じ指針は、受注者として、根拠資料には公表資料を用いること、指針に記載の事例を参考に適切なタイミングで自ら発注者に価格転嫁を求めることも挙げています1。
書き方は、待つのではなく、受注者から求める形です。そのうえで、根拠は自分の感覚ではなく公表資料に置きます。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2025年12月)をもとに作成
では、根拠に使う公表資料は、どのような位置づけなのでしょうか。次の節で確かめます。
4. 根拠に使う公表資料
受注者の根拠資料は公表資料
指針が受注者に挙げているのは、根拠資料に公表資料を用いることです1。自分の感覚や取引先との雑談ではなく、誰でも確認できる資料に根拠を置く考え方です。
どの公表資料を使うかは、指針の記述だけでは決まりません。フリーランスが自分の報酬に当てはめる場合の選び方は、相談窓口で確かめる事柄になります。
発注者側に置かれた同じ向きの取り決め
指針は、発注者にも同じ向きの行動を挙げています。発注者が労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は公表資料に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格は、合理的な根拠があるものとして尊重することとされています1。
ただし、これは発注者側の行動として書かれた項目です。フリーランスの申し出を指針が個別に認めるという意味ではなく、受注側が公表資料で根拠を示すときの考え方の参考として読みます。
次の節では、根拠をそろえたあとの申し出の形と、交渉の記録を見ます。
5. 申込み様式と交渉記録
価格交渉の申込み様式(例)
公正取引委員会の指針のページには、別添として価格交渉の申込み様式(例)が掲載されています1。口頭やメールの一文で切り出すのではなく、様式という形で申し出る道筋が、資料の側に用意されているということです。
様式の記入欄や文面の中身は、この記事では取り上げません。使うときは、同ページに載っている現行の様式を開き、書かれているとおりに埋めます。
残しておく交渉の記録
指針は、発注者と受注者に共通の取組として、定期的にコミュニケーションをとる機会を設けることと、価格交渉の記録を作成して双方が保管することを挙げています1。
記録は、申し出た側だけが持つものではなく、双方が保管するものとして書かれています。表2に、この節で触れた残すものと、その出どころを並べます。
| 残すもの | 中身 |
|---|---|
| 価格交渉の記録 | 作成して、双方が保管する1 |
| 定期的にコミュニケーションをとる機会 | 発注者と受注者に共通の取組1 |
| 申込み様式(例) | 別添として指針のページに掲載1 |
| 根拠に用いた公表資料 | 受注者が根拠資料に用いるもの1 |
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6. 相談できる窓口
指針に挙がる相談先
指針が受注者の行動に挙げている相談先は、国・地方公共団体の相談窓口と、中小企業の支援機関(商工会議所・商工会等)の相談窓口などです1。目的は、窓口に相談して積極的に情報を集め、そのうえで交渉に臨むことにあります。
窓口の具体的な名称や、フリーランス個人が利用できるかどうかは、指針の記述からは分かりません。利用の条件は、各窓口の案内で確かめます。
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2025年12月)をもとに作成
窓口で情報がそろったら、実際に申し出る順番を組み立てます。
7. 値上げを申し出る順番
4つの手順と根拠
指針の記述を並べ替えると、申し出の順番は、情報を集める、公表資料で根拠を用意する、様式を参考に申し出る、記録を残す、の4つになります。窓口で情報を集めることは受注者の行動として1、公表資料を根拠にすることも受注者の行動として1、記録の保管は共通の取組として挙げられています1。
表3は、手順ごとに、指針のどの記述に基づくかを対応させたものです。順番そのものは指針が定めたものではなく、記述を使いやすく並べた整理です。
| 順番 | やること | 指針の記述 |
|---|---|---|
| 1 | 相談窓口で情報を集める | 受注者の行動として、窓口に相談して情報を収集1 |
| 2 | 公表資料で根拠を用意する | 受注者の行動として、根拠資料には公表資料を用いる1 |
| 3 | 様式を参考に申し出る | 適切なタイミングで自ら求める。様式(例)が別添に掲載1 |
| 4 | 交渉の記録を残す | 価格交渉の記録を作成し、双方が保管1 |
出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2025年12月)をもとに作成
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契約更新の前、メールの下書きの前で指が止まっていた一文は、4つの手順のどこで書き始めるかが決まれば、打てる形になります。窓口で集めた情報と、公表資料に置いた根拠を手元にそろえてから、様式を参考に申し出ます。
申し出たあとは、やり取りを記録として残します。値上げは、気持ちではなく根拠と記録で申し出ます。
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8. よくある質問
フリーランスでもこの指針を使えますか
指針は、労務費の転嫁に係る価格交渉について、発注者と受注者それぞれの行動を12の行動指針に取りまとめたものです1。対象は受注者全般なので、フリーランス個人の報酬に当てはめるときは、考え方の参考として読みます。
根拠にはどんな資料を使いますか
指針は、受注者が根拠資料に公表資料を用いることを挙げています1。発注者が根拠資料の提出を求める場合も、公表資料に基づくものとされています1。具体的にどの資料を選ぶかは、相談窓口で確かめます。
申し出た記録はどう残しますか
指針は、価格交渉の記録を作成して、発注者と受注者の双方が保管することを挙げています1。記録の書式までは指針の記述にないため、申込み様式(例)が載っているページを開き、様式に沿って残します1。
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出典・参考情報
*1 公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2025年12月・2026年10月確認)
*2 Remogu(株式会社LASSIC運営)公開情報:扱う案件の90%以上がフルリモート可能