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    MATLABのフリーランス案件で伝わる実績|モデル化と検証のスキルを整理

    監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

    明るい机で、無地のノートに四角と矢印の流れを鉛筆で描く手元。横に小さなモーターをつないだ基板と閉じたノートパソコン

    📘 この記事でわかること

    • 同じMATLABの下に制御設計や信号処理など別の仕事が入っていることと、道具名だけでは実績が伝わらない理由
    • 国や大学の資料に出てくるモデルベース開発・解析の扱いと、IPAのスキル標準の言葉への置き換え方
    • 対象・手法・検証・成果物の4要素で実績を書く型と、守秘に触れず示す線引き、案件の説明文との突き合わせ方

    フリーランスで業務委託の案件に臨んだ面談で、「MATLABは長く使ってきました」と答えたところ、相手から「何をモデルにして、何を確かめてきた方ですか」と聞き返されました。制御の話から始めるか、解析の話から始めるかで迷い、言葉が出なくなります。職務経歴に「MATLAB 5年」としか書けないままでは、何をしてきた人なのかが伝わらず、案件の話が進まないのではないか。そんな不安の正体は、同じMATLABの下にまったく違う仕事が入っていることにあります。MATLABの実績は、道具の名前ではなく、何をモデルにして何を確かめたかで伝えます。

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    1. 「MATLABが使えます」だけでは伝わらない理由

    同じ道具の下に入っている別々の仕事

    MATLABは、数値計算やシミュレーションに使う技術計算用のソフトウェアです。使い方は人によってかなり違います。制御系の設計に使う人もいれば、信号のフィルタを組む人、物理現象の計算を回す人、測定したデータを解析する人もいます。同じ「MATLAB」という名前でも、頭の中にある仕事の中身はこれだけ離れています。

    そのため、「MATLABは長く使ってきました」という一文だけでは、聞く側が経験の種類を判断できません。制御設計の経験者なのか、データ解析の経験者なのかが分からないので、聞き返すしかなくなります。冒頭の面談で聞き返されたのは、答えが悪かったからではなく、道具の名前だけでは仕事が見えないからだと、書き手は見ています。

    図1:道具名の下に並ぶ仕事の種類と成果物
    MATLABの下にある4つの仕事と、それぞれの成果物 MATLAB 制御設計 制御モデル 信号処理 フィルタ 数値解析・シミュレーション 計算結果 データ解析 解析レポート

    図の作成:Remogu編集部。MATLABの使われ方を書き手が整理したもので、統計データではありません

    実績を伝えるために変える視点

    制御設計なら制御モデル、信号処理ならフィルタというように、仕事ごとに相手へ渡すものが違います。実績として示したいのは、使った道具の名前よりも、何をモデルにして何を確かめ、最後に何を渡したかです。聞かれたときに答えやすい書き方として、この記事では対象・手法・検証・成果物の4つの要素に分けて整理します。

    この整理は、書き手の見立てです。案件の説明文や面談でいつもこの順に聞かれる、という意味ではありません。自分の経験を、相手が聞き返す前に伝わる形へ並べ直すための型として使います。まずは、モデルを軸にした仕事が公的な資料にどう出てくるかを見てみます。

    2. 自動車の外にも及ぶモデルベース開発の例

    東京大学MODEとマツダの連携

    2025年7月1日、東京大学大学院新領域創成科学研究科の海事デジタルエンジニアリング社会連携講座(MODE)とマツダは、モデルベース開発(MBD)技術領域の連携協力を締結しました1。自動車産業と海事産業をつなぐ連携です。モデルベース開発は、実物を作る前にモデルで挙動を確かめながら設計を進める開発の進め方で、MATLABやSimulinkでモデルを組んできた人にも身近な言葉です。

    連携の中身を、締結した日、主体、領域、MODE側の取り組みに分けて並べます。MBDの工程の細かい話には入らず、モデルを軸にした開発が自動車だけの話ではない、という一例として読みます。

    項目内容
    締結日2025年7月1日1
    主体東京大学MODEとマツダ1
    領域モデルベース開発(MBD)技術領域1
    MODEの取り組み海事業界18者とシミュレーション共通基盤の開発1

    別の業界の言葉で語れる経験

    MODEでは、東京大学と海運・造船・舶用の海事業界18者が連携して、シミュレーション共通基盤の開発に取り組んでいます1。18者は発表時点の参加数で、海事業界側の数です。マツダを含む数ではありません。

    書き手の見立てでは、自動車の制御や機構のモデルを組んできた経験は、対象を入れ替えれば別の産業の言葉でも語れます。船や舶用機器のシミュレーションの案件にそのまま参画できる、という意味ではありません。モデルを何に対して組み、何で確かめたかを言える人は、業界が変わっても自分の経験を説明できる、という程度の話です。

    ただし、この発表はMBD全般の連携の例です。MATLABやSimulinkが使われているかどうかまでは示しておらず、案件の動向を示す資料でもありません。ここから読み取れるのは、モデルを軸にした仕事が複数の産業にまたがる形で語られている、という事実までです。次は研究の現場に目を向けます。

    3. 国の方針でも解析はAI活用の対象に挙がっている

    明るい机で、白・薄い青・薄い黄の無地のカードを左から一列に並べる手元。奥に基板

    文部科学省の方針に出てくる解析

    文部科学省の「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」(2026年3月31日)は、研究課題設定から実験・観測、解析、レポート作成までの研究プロセス全体でAIを活用する研究システムの開発を推進するとしています2。国の方針として、解析が研究プロセスの工程の一つに数えられています。

    研究を工程に分けて並べると、解析は実験・観測のあとに位置します。MATLABで測定データや計算結果を扱ってきた人にとっては、自分の仕事がどの工程にあたるかを確かめる手がかりになります。

    図2:研究プロセスの工程と実績に書く位置
    研究プロセスの工程と解析の位置 実績に書く工程 研究課題 設定 仮説 生成 計画 立案 実験・ 観測 解析 知識 統合 レポート 作成 AI活用の範囲は全体

    出典:文部科学省「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」(2026年3月31日)をもとにRemogu編集部が作成

    AIを活用する範囲は特定の工程にとどまらず、研究プロセス全体に及びます2。解析はその中の一つです。

    3年間で3,000件という目標値

    同じ方針は、AI for Science研究のユースケースを3年間で3,000件創出するとしています2。これは国の目標値で、実績ではありません。研究の仕事が外部の技術者に出ることや、フリーランスへの発注が増えることを示す数字でもありません。

    研究の経験を実績として書く見方

    書き手の見立てでは、研究で積んだ解析の経験も、何を解析し、何を確かめたかを書けば、実績として説明できます。「MATLABで解析しました」で止めず、対象にしたデータ、使った手法、結果をどう確かめたかまで書きます。解析を担った工程が決まれば、前後の工程との関係も一言で添えられます。

    一方、方針が述べているのは、解析がAI活用の対象の一つに入っているところまでです。解析の道具や担い手がどう変わるかは、この資料からは読み取れません。では、解析やシミュレーションの経験は、公的なスキル標準ではどんな言葉になるのでしょうか。

    4. 公的なスキル標準の言葉で書き直す

    2026年4月の改訂

    IPAのデジタルスキル標準は2026年4月に改訂され、データマネジメントのロールとスキルを追加し、AI実装・運用やAIガバナンスに関するスキルを拡充しました3。この記事で使うのは、改訂の中身のうち、解析やシミュレーションの経験を書き直すときの言葉です。

    資格や認定として扱うのではなく、自分の作業を説明するときの言葉の候補として借ります。スキル標準全体の読み方は、デジタルスキル標準の読み方を整理した記事にまとめています。

    解析とシミュレーションに近い項目

    DX推進スキル標準では、スキル項目「数理統計・多変量解析・データ可視化」を、統計学的知見に基づく手法を用いてデータを解析し、その結果を洞察するスキルと説明しています3。測定データの統計処理や可視化の作業は、書き手の見立てでは、この項目の言葉に置き換えられます。

    一方、同じスキル標準の学習項目例には、オペレーションズリサーチとして「シミュレーション・データ同化、最適化」が挙げられています3。スキル項目と学習項目例は別の項目で、数理統計の項目にシミュレーションが含まれるわけではありません。また、これは学習項目の例示であり、制御設計そのものを指す項目ではありません。

    作業とスキル標準の言葉の対応

    MATLABでの作業の例を、スキル標準の言葉の候補と並べます。対応づけは書き手の見立てで、スキル標準が各作業をこの言葉に当てると定めているわけではありません。物理モデルのシミュレーションを、オペレーションズリサーチの学習項目例の言葉に結びつけているのも見立てです。

    MATLABでの作業の例置き換える言葉(見立て)スキル標準での位置づけ
    計測データの統計処理・可視化数理統計・多変量解析・データ可視化3スキル項目
    物理モデルのシミュレーション・パラメータ同定シミュレーション・データ同化3学習項目例(オペレーションズリサーチ)
    制御パラメータの調整・設計の探索最適化3学習項目例(オペレーションズリサーチ)

    公的な言葉に置き換えると、業界や会社ごとに呼び方が違う作業でも、共通の言葉で説明できる範囲が広がります。次は、言葉に置き換えた作業を、実績の形に組み立てます。

    5. 実績を4つの要素で書く

    対象・手法・検証・成果物の並べ方

    実績の書き方として、この記事は4つの要素を提案します。何をモデル化したかを「対象」、どう組んだかを「手法」、何をどう確かめたかを「検証」、最後に何を渡したかを「成果物」と呼びます。聞かれたときに答えやすい書き方としての提案で、案件の説明文がこの順を求めているわけではありません。

    たとえば、モーターの速度制御なら、対象はモーターの速度、手法はPIDと伝達関数、検証はステップ応答での確認、成果物は制御モデルと検証レポートです。道具の名前は、手法の欄のどこかに添えれば足ります。

    図3:モーターの速度制御を4つの要素に分けた例
    実績を書く4つの要素と、速度制御の例 対象 手法 検証 成果物 何をモデル化 どう組んだか 何を確かめた 何を渡した モーターの 速度制御 PID・伝達関数 ステップ応答 で確認 制御モデルと 検証レポート

    図の作成:Remogu編集部。実績の書き方を書き手が整理したもので、統計データではありません

    仕事の種類ごとに入れ替わる中身

    4つの要素の枠は、仕事の種類が変わっても同じです。信号処理なら、対象は処理する信号、手法はフィルタの設計、検証は処理の前後の比較、成果物はフィルタです。数値解析なら、対象は計算する現象、手法は離散化や反復の組み方、検証は条件を変えた計算結果の比較、成果物は計算結果になります。

    入れ替わるのは中身だけで、欄の数は変わりません。「MATLAB 5年」と一行で書くよりも、この4欄を埋めた短い文を2〜3本並べるほうが、何をしてきた人かが相手に見えます。実績の欄をどう整えるかは、職務経歴書の実績の書き方を扱った記事が詳しく、書式の話はそちらに任せます。

    4欄のうち、最も埋めにくいのは検証の欄です。何を基準に「うまくいった」と判断したかを、自分の言葉で説明できる必要があるためです。基準を書けない仕事は、実績としては短くなります。そのときは、無理に飾らず、書ける範囲だけを書きます。次は、書ける範囲をどこに引くかです。

    6. 秘密に触れずに実績を示す

    明るい打ち合わせ机で、無地の書面の枠をペン先で示す手と、向かいの人の手。端に閉じたノートパソコン

    書ける範囲と書かない範囲の線

    MATLABで扱った仕事の多くは、発注元の製品や試験データに結びついています。そのため、実績を書こうとすると、どこまで出してよいのかで手が止まります。4つの要素に分けると、出さなくても伝わる部分と、出さないほうがよい部分が分かれます。

    対象は種類で書き、社名や製品名は書きません。手法は名前で書き、実際のパラメータの値は書きません。検証は方法と工程で書き、社外秘の試験データは載せません。成果物は形で書き、モデルのファイルそのものは渡しません。線の引き方を表にまとめます。

    要素ごとの書き方の線引き

    要素書けること書かないこと
    対象対象の種類(例:車載モーター)社名・製品名
    手法手法の名前(例:カルマンフィルタ)実際のパラメータ値
    検証検証の方法と工程社外秘の試験データ
    成果物成果物の形モデルのファイルそのもの

    契約で決まる守秘の範囲

    ただし、この表は一般的な線の引き方の例です。何が秘密にあたるかは、過去の発注元との契約で決まります。同じ手法の名前でも、書いてよい契約と、書けない契約があります。

    迷ったときは、発注元に確かめます。確認が取れない部分は、種類と形だけにとどめれば、4つの要素の枠は保てます。次は、書いた実績を、案件の説明文と突き合わせます。

    7. 案件の説明文と実績を突き合わせる

    説明文の動詞から対応づける順番

    案件の説明文に出てくる動詞は、相手が頼みたい作業の手がかりです。「モデル化する」「検証する」「解析する」のような語を拾い、自分の作業のどれに当たるかを対応づけます。説明文にどんな動詞が並ぶかは案件によって異なり、ここで挙げた語は例です。

    図4:説明文と自分の実績を結ぶ4つの手順
    案件の説明文と実績を突き合わせる順番 手順1 手順2 手順3 手順4 説明文の 動詞を拾う 自分の作業に 対応づける スキル標準の 言葉に置き換え 成果物で示す

    図の作成:Remogu編集部。突き合わせ方を書き手が整理したもので、統計データではありません

    言葉の置き換えと成果物で閉じる

    対応づけた作業は、必要に応じてスキル標準の言葉に置き換えます。2026年4月に改訂されたIPAのデジタルスキル標準には、解析を表す項目3と、シミュレーションを含む学習項目例3があります。置き換えはこの記事の見立てで、案件の評価を保証するものではありません。

    最後に、成果物で示します。制御モデルなのか、フィルタなのか、計算結果なのか、解析レポートなのか。渡したものが決まれば、相手は自分の依頼する仕事と重ねて読めます。冒頭の面談で聞き返された場面も、この順で整理しておけば、制御の話から入るか、解析の話から入るかを自分で選べます。

    Remogu(株式会社LASSIC運営)は、リモートワーク案件特化のエンジニアマッチングで、案件の90%以上がフルリモート可能です。まず登録して、自分の経験に合う条件を確かめてみてください。手元にある4つの要素の短い文を持っていけば、案件の説明文との突き合わせが一つずつ進みます。

    MATLABの実績は、道具の名前ではなく、何をモデルにして何を確かめたかで伝えます。

    8. よくある質問

    Simulinkしか使っていない経験でも、実績として書けますか

    書けます。この記事の見立てでは、モデルの対象と検証を書けば、道具がSimulinkでも同じ4つの要素に当てはめられます。何をモデル化したか、どう確かめたか、何を渡したかを答えられれば、実績として伝わります。

    Pythonで同じ処理を求められたら、MATLABの経験は通じませんか

    対象・手法・検証は、道具が変わっても残ります。これも書き手の見立てです。どちらの道具が優れているかは、この記事では扱いません。求められた処理を、4つの要素で説明し直すことから始めます。

    研究室での解析の経験は、実績になりますか

    何を解析し、何を確かめたかを書けば、説明できます。文部科学省の方針でも、解析は研究プロセスの工程の一つに挙がっています2。成果をどこまで公表してよいかは研究室の決まりを確認し、公表できない部分は種類と形だけにとどめます。

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    ※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。

    出典・参考情報

    *1 東京大学「海事デジタルエンジニアリング社会連携講座」(2025年7月1日・2026年10月確認)
    *2 文部科学省「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」(2026年3月31日・2026年10月確認)
    *3 IPA「デジタルスキル標準」(2026年4月1日・2026年10月確認)