【案件と著作権】成果物の権利はどこまで譲渡されるのか、契約に要る「特掲」の仕組み
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 成果物は作った時点で著作者の権利が生まれることと、その権利が精神的な利益を守るものと財産的な利益を守るものに分かれること
- 著作権が複製や公衆送信など利用形態ごとに規定されていることと、財産権にあたる部分だけを契約で譲り受けられること
- 契約書に特掲が無いと二次的な利用に関する権利が留保されたと推定されることと、人格権は著作者本人にとどまり続けること
納品した成果物が、思っていた形とは違う場面で使われているのを見かけることがあります。契約書には金額と納期の条項が並んでいても、著作権についての記載が一文だけの案件があります。成果物を作った時点で著作者になる権利と、契約によって移っていく権利は、別々の仕組みで動いています。ここでは案件と著作権の関わりを、条文の呼び名から離れて整理します。
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1. 成果物を作った時点の権利の帰属
契約書を交わす前から動き出している権利
案件が始まる前は、仕様のすり合わせや見積りのやり取りが中心になります。契約書に金額と納期は細かく書かれていても、権利の項目は簡素な一文で済まされている案件もあります。
著作者とは、著作物を創作する者のことです1。この定義には契約という言葉が出てきません。つまり契約書に権利についての記載が無くても、成果物を仕上げた時点で、その人がすでに著作者になっているという順番です。
権利の発生と契約の締結は、別の出来事として考える必要があります。契約は権利をどう扱うかを決める場であって、権利そのものを生み出す場ではありません。この順番を押さえておくと、後の章で見る譲渡の話につなげて読めます。
出来栄えと著作者になる条件の関係
自分が仕上げたものの完成度と、著作者として扱われるかどうかは、別の問いです。
創作した時点でその人が著作者になり、上手いか下手かということや、芸術的な価値などといったこととは一切関係ありません1。技術力の評価軸と、著作者になるかどうかの軸は、そもそも別のところにあります。
評価の高さよりも、創作したという事実そのものが起点になる仕組みです。この起点をふまえたうえで、次に見ておきたいのは、著作者に生まれる権利がどんな中身で構成されているかという点です。
2. 2つに分かれる著作者の権利
精神的な利益を守る権利と、財産的な利益を守る権利
著作権という言葉は、ひとまとまりの一つの権利のように聞こえます。ですが成果物をめぐって実際に動いているのは、性質の異なる二つの権利です。ここを分けて考えられるかどうかで、契約書の読み方が変わってきます。
著作者の権利は、大きく分けると著作者人格権と著作権(財産権)の2つで構成されています1。名前は似ていますが、守っている中身は別のものです。まずはこの二つの権利が、それぞれ何を守っているのかを見ていきます。
著作者人格権は著作者の精神的利益を守る権利であり、著作権(財産権)は著作者の財産的利益を守る権利です1。精神的な利益よりも財産的な利益のほうが、契約でやり取りしやすい性質を持っています。
二つの権利の違いを示す表と図
言葉で説明されるより、並べて見たほうが分かりやすい部分でもあります。次の表は、著作者人格権と著作権(財産権)が、それぞれどの利益を守るために置かれている権利かを整理したものです。表のあとの図では、二つの権利が同時に生まれている様子をまとめています。
| 権利 | 守る利益 |
|---|---|
| 著作者人格権 | 精神的利益1 |
| 著作権(財産権) | 財産的利益1 |
出典:文化庁「著作権テキスト」をもとに作成1
二つの権利が同時に生まれる仕組みが分かったところで、次に見ておきたいのは、財産権の側がさらにどんな形で規定されているかという点です。「著作権」という呼び方自体、じつは一つの権利を指す言葉ではありません。
3. 「著作権」という呼び名と権利の実態
利用形態ごとに個別に規定された権利
前の章で、著作権(財産権)が財産的利益を守る権利だと確認しました。ここで押さえておきたいのは、その著作権が単一の権利として法律に書かれているわけではないという点です。呼び名は一つでも、中身は一つではありません。
著作権法には著作権という名称の権利は規定されておらず、複製、上演、演奏、公衆送信といったように利用形態ごとに権利が規定されています1。契約書で著作権という言葉だけを見ていても、その中身までは見えてこないということです。
複製、上演、演奏、公衆送信などの利用の都度、著作権が及ぶということを理解しておくことが重要です1。まとまりのある一つの権利よりも、利用行為ごとに個別に生まれる権利の集まりとしてとらえたほうが実態に近くなります。
利用形態の例を示す表と図
利用形態ごとに権利が及ぶという仕組みは、言葉だけで追うと抽象的に感じられます。次の表では、文化庁の案内が挙げている利用形態の例と、権利が及ぶ場面の対応を整理しました。表に続く図では、著作権(財産権)が個別の利用形態に枝分かれしている様子をまとめています。
| 利用形態 | 権利が及ぶ場面 |
|---|---|
| 複製 | 複製する行為のたびに1 |
| 上演・演奏 | 上演・演奏する行為のたびに1 |
| 公衆送信 | 公衆送信する行為のたびに1 |
| そのほかの利用形態 | それぞれの利用のたびに1 |
出典:文化庁「著作権テキスト」をもとに作成1
利用形態ごとに権利が分かれているという仕組みが見えたところで、次に確かめておきたいのは、これらの権利のうち、契約によって譲り受けられるのはどちらの側かという点です。
4. 譲渡の対象になる財産権
契約で動かせるのは、財産的利益を守る側の権利
著作者の権利は精神的利益を守る側と財産的利益を守る側に分かれ、財産権の側はさらに利用形態ごとに枝分かれしています。案件の契約書で実際に動く権利がどちらなのかを確認します。
著作権(財産権)は、契約によって権利者から譲り受けられます1。案件の契約書に著作権の譲渡を定める条項があるとき、実際に移っているのはこの財産権の側です。
財産権の中身と譲渡の範囲
財産権が契約で譲り受けられるとはいえ、財産権そのものが利用形態ごとの権利の集まりであることは前の章で確認したとおりです。譲渡の対象がどこまで及ぶかは、契約書の記載しだいで変わってきます。
財産権全体を漠然と眺めるよりも、どの利用形態にあたる権利が契約書に書かれているかを見たほうが、実際に何が移るのかを確かめられます。次の章では、この記載が無いときに何が起きるのかを見ていきます。
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5. 特掲がない場合の留保の推定
記載が無いときの留保の推定
財産権は契約で譲り受けられると分かっても、契約書に細かい記載が無い案件もあります。金額と納期だけを詰めて、権利の範囲は簡潔な一文で済ませている契約書を見かけることもあります。
著作権法では譲渡人の保護規定があり、二次的な利用に関する権利(第27条、第28条)については、契約において特掲されていないときは、譲渡した者に留保されたものと推定する旨が規定されています1。あくまで推定であって、契約書の記載しだいで結論が変わる仕組みです。
「特掲」という言葉は、契約書の中でその権利を名前を挙げて書いておくことを指します。文化庁の案内は、これらの権利を含めた著作権の譲渡を受ける際、契約書に「すべての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡する」と記載しておく必要があるとしています1。「著作権を譲渡する」という一文だけでは、この2つの権利について名前を挙げた記載があるとはいえない形です。
この決まりは、譲渡する側と譲り受ける側のどちらにとっても、契約書のどこを見れば分かるのかを示しています。案件の成果物をあとから別の形に作り直したり、別の媒体に展開したりする話が出てきたときに、その範囲が契約書に書かれているかどうかを確かめる手がかりになります。
推定というのは、書かれていない場合の取り扱いを定めた規定であり、記載があればその推定は働きません。特掲の有無よりも先に断定できることではなく、契約書の文言を確かめてはじめて分かる話です。
特掲の有無を比べる表と図
言葉で追うだけでは、特掲の有無がどう結果を変えるのかがつかみにくい部分です。次の表は、契約書に第27条・第28条の権利を含む旨の記載があるときとないときで、二次的な利用に関する権利の扱いがどう変わるかを整理したものです。表に続く図でも、同じ対比を並べています。
| 契約書の記載 | 二次的な利用に関する権利の扱い |
|---|---|
| 第27条・第28条の権利を含む旨の特掲が無いとき | 譲渡した者に留保されたものと推定されます1 |
| 二次的な利用に関する権利も含めて譲渡するとき | 契約書に第27条及び第28条の権利を含めて譲渡すると記載しておく必要があります1 |
出典:文化庁「著作権テキスト」をもとに作成1
推定が働く条件が分かったところで、次は契約書にどう書かれることになっているのか、その記載そのものを見ていきます。
6. 契約書に求められる記載
第27条・第28条の権利を含める旨の記載
前の章で見た推定の仕組みは、契約書の記載しだいで結果が変わるという点が要になっています。ここでは、その記載がどのような形で求められているのかを、文化庁の案内に沿って確認します。
これらの権利を含めた著作権の譲渡を受ける際は、契約書にすべての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡すると記載しておく必要があります1。抽象的な「著作権を譲渡する」という一文だけでは、この部分が及ばない可能性が残るということです。
確認する対象は、契約書の文言そのもの
この記事は個々の契約がどう解釈されるかを判断する場ではなく、契約がどう成立しているかを言い当てるものでもありません。読み解けるのは、文化庁の案内が示している仕組みの範囲までです。
契約書を確認するときに見ておきたいのは、第27条・第28条の権利を含む旨の記載があるかどうかという点そのものです。記載の有無を確かめることが、この仕組みを踏まえた最初の一歩になります。
財産権の側の記載を確認できたら、もう一つ残っている人格権の側についても、どのように扱われているのかを見ておく必要があります。
7. 人格権の扱い
人格権を行使しない旨の規定例
財産権は契約書の記載しだいで動きますが、人格権の側は別の性質を持っています。この節では人格権を改めて整理します。
著作者人格権については、利用者に自由に使わせる必要がある場合などに、著作者人格権を行使しない旨を規定する例も見受けられます1。あくまで例が見受けられるという段階の話であり、契約書ごとに記載の有無は分かれます。
財産権の記載を細かく詰めるだけでなく、人格権について何らかの記載があるかどうかも、契約書を見るときに確かめておきたい点です。
人格権は著作者本人にとどまり続ける権利
財産権が契約によって権利者から譲り受けられる1のに対して、人格権はそもそも性質が異なります。この違いを図でも確認しておきます。
著作者人格権は一身専属の権利です1。財産的な利益を守る権利よりも、著作者本人から切り離しにくい性質を持っているということです。
一身専属とされていることは、著作者人格権が著作者本人から離れない性質を持つという意味です。財産権の側が契約で移っていくのに対して、人格権の側は移る対象として扱われていません。同じ成果物について、移る権利と移らない権利が並んでいる、という形になります。
出典:文化庁「著作権テキスト」をもとに作成1
財産権は契約書の文言によって動き、人格権は著作者本人にとどまり続けるという、性質の異なる二つの権利があることを確認してきました。契約書を確認するときは、この両方に目を向けておく必要があります。
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8. よくある質問
初めて受ける案件でも、著作者になる仕組みは同じですか
創作した時点でその人が著作者になり、上手いか下手かということや、芸術的な価値などといったこととは一切関係ありません1。経験の年数や案件の数によって、この仕組みが変わることはありません。
契約書に第27条・第28条の文言が無いとき、権利はどうなりますか
二次的な利用に関する権利(第27条、第28条)については、契約において特掲されていないときは、譲渡した者に留保されたものと推定する旨が規定されています1。あくまで推定であり、契約書の記載しだいで結論が変わる仕組みです。
契約書に人格権の記載が無いとき、何を確認すればよいですか
著作者人格権については、利用者に自由に使わせる必要がある場合などに、著作者人格権を行使しない旨を規定する例も見受けられます1。まずは契約書に人格権についての記載そのものがあるかどうかを確かめることから始まります。
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