【案件の損害賠償】責任を区切る条と重過失という分かれ目を解説
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 作業分担が曖昧な場面ほどトラブルに発展しやすいことと、契約書に区切りとして置かれる条の役割
- 権利義務の譲渡禁止や解除、損害賠償、和解による解決まで、条がどんな順で並んでいるか
- 重過失の有無が期間制限の分かれ目になることと、多段階契約で確かめておきたい複数の項目
案件を選ぶとき、契約書の後半に並ぶ条文まで目を通す人は多くありません。責任や賠償に関する条は分量も少なく、読み飛ばされがちです。IPAが公開した講演資料は、作業分担が明確になっていないと、損害賠償請求の訴訟などのトラブルに発展するケースもあるとしています1。契約書のどこに何が定められているかを知ることが、責任の範囲を自分の手元に置く第一歩になります。
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1. 役割分担から始まる責任の話
分担が曖昧なまま進む場面
案件が決まると、まず気になるのは作業の内容と進め方です。責任の範囲や賠償に関わる条文は、その次に読む位置にあります。けれど契約書の後半には、作業の分担がはっきりしないまま進んだ場合に何が起きうるかが書かれています。
IPAの講演資料は、責任関係や作業分担等が明確になっていないと、損害賠償請求の訴訟などのトラブルに発展するケースもあるとしています1。この一文が示しているのは、責任の重さそのものではなく、責任の「置き場所」がはっきりしているかどうかという観点です。
進め方だけを打ち合わせるよりも、誰がどこまでを担うかを言葉にして残しておくほうが、後になって話がこじれる場面を減らせます。作業の分担は口頭のやり取りで終わらせず、契約書や付随する文書に落とし込む対象として捉えます。
契約書を読む視点の切り替え
契約書を最初から最後まで読む機会は少なく、読んだとしても目が行くのは業務内容や報酬の条が中心になります。責任や賠償の条は文字数が少なく、後半にまとめて置かれていることが多いため、印象に残りにくい部分です。
ここで見え方が変わります。責任は無限に広がるものではなく、契約書のなかで区切る条と分かれ目を置いて設計されています。分量が少ないからといって重要度が低いわけではなく、むしろ何かが起きたときに読み返す条文だからこそ、簡潔にまとめられていると捉えたほうが自然です。
次の章からは、契約書のひな型に実際にどんな条が並んでいるか、その内容を一つずつ見ていきます。読み流していた条文の役割が、順を追うことで見えてきます。
出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成
2. 主要論点としての整理
著作権の帰属が並んでいる理由
責任の条だけを見ていると、契約書全体で何が論点になっているのかを見失いがちです。もめる場面を想像するとき、頭に浮かぶのは損害賠償の条くらいで、それ以外の条は視界に入りにくいものです。
IPAの資料では、主要論点として、著作権の帰属が整理されているとされています1。成果物を誰が作ったかだけでなく、その権利がどちらに属するかという点が、責任の話と並んで扱われる論点になっているという整理です。
成果物を納めて終わりにするよりも、権利の扱いまで含めて条文を確かめておくほうが、後から想定外の使われ方をされる不安を減らせます。責任の条だけを見るよりも、権利や役割分担の条まで含めて全体を見る視点が役立ちます。
論点として並ぶことの意味
論点として整理されているというのは、まだ結論が一つに定まっているわけではなく、契約書を作るたびに書き手が検討し直す対象になっているということでもあります。契約書のひな型があっても、内容がそのまま自動的に決まるわけではありません。
この記事では、そうした論点のなかから、責任の範囲に直接関わる条を中心に取り上げていきます。次の章からは、契約書に実際に置かれている条を、順番に見ていきます。
3. 譲渡の禁止と解除の条
権利義務の譲渡を禁止する条と、契約を解除する条
契約書のひな型を最初から並べて見ると、責任に関わる条がひとかたまりで置かれていることに気づきます。契約書のひな型には、権利義務譲渡の禁止の条が置かれているとされています1。これは、契約上の立場や権利義務を、相手の承諾なく別の相手に移さないことを定める条です。
続けて、契約書のひな型には、解除の条も置かれているとされています1。契約を途中で終える場面と、その進め方を定める条です。始めるときの条文だけでなく、終える場面の条文まで用意されているという点が、契約書の設計として押さえておく点です。
以下の表に、この二つの条をまとめます。読み解く視点もあわせて示します。
| 条 | 主な内容 | 読み解く視点 |
|---|---|---|
| 権利義務の譲渡を禁止する条 | 契約上の立場や権利義務を、相手の承諾なく第三者に移さないことを定めています | 契約の相手が途中で変わる場面があるかどうかを確かめる視点になります |
| 契約を解除する条 | 契約を途中で終了させる場面と、その進め方を定めています | どのような状況で契約が終わる形になっているかを確かめる視点になります |
並び順から見えてくること
譲渡の禁止と解除の条が続けて置かれているのは、どちらも「契約という関係そのものの区切り」を扱う条だからです。誰が契約の当事者であり続けるか、いつまで契約が続くかという、責任の話の土台にあたる部分にあたります。
この土台を確かめないまま損害賠償の条だけを見ても、全体の設計は見えてきません。次の章では、その先に置かれている損害賠償の条そのものを取り上げます。
出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成
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4. 損害賠償の条
損害賠償の条が担う役割
契約書のひな型には、損害賠償の条が置かれているとされています1。契約に沿って進めていても、何らかの理由で相手に損害が生じたとき、その扱いをどう定めるかという条です。読み飛ばされがちな部分ですが、責任の話のなかでは中心にあたります。
この条があるからといって、賠償の場面がすぐに起きるわけではありません。むしろ、条として文言に残されているからこそ、双方が何を確認すればよいかが分かる状態になっています。条文が無い状態では、何を確認すればよいかが文言に残りません。
条文の読み方
損害賠償の条を読むときに大切なのは、何が起きたら適用される条なのかという場面の確認です。範囲を自分で判定しようとするよりも、契約書に何が置かれているかをそのまま確かめるところから始めるほうが、話がこじれる場面を減らせます。
条文の言葉を自分なりに解釈して結論を急ぐよりも、分からない語や場面をそのまま残しておき、必要になったときに文言に立ち返れるようにしておくほうが、後になって文言を探し直す手間を減らせます。次の章では、賠償とは別の解決の道として置かれている条を見ていきます。
5. 和解による紛争解決の条
賠償の条とあわせて置かれている道
契約書のひな型には、和解による紛争解決の条も置かれているとされています1。損害賠償の条だけが用意されているわけではなく、話し合いによって解決へ向かう道も、あわせて条として置かれているという整理です。
もめたときの手順が損害賠償の条だけで終わらず、和解という選択肢まで並んでいることは、契約書全体の設計として押さえておく点です。条文の数だけを見ると重く感じますが、進め方の幅を広げる条だと捉えると受け止め方が変わります。
選択肢が並んでいることの意味
賠償の条だけを頼りにするよりも、和解という進め方まで含めて全体を見ておくほうが、実際に何かが起きたときに条文へ立ち返れます。契約書は一つの決着だけを想定して作られているわけではありません。
では、これらの条とは別に、重過失という言葉は何を分けているのでしょうか。
6. 重過失が分かれ目になるという整理
期間制限が変わる分かれ目
民法改正に対応した見直しによって、請負型の業務における契約不適合責任においても「重大な過失」の有無が客観的起算点による期間制限の適用の分水嶺となったとされています1。難しい言葉が並びますが、要点は「重過失があるかどうか」で、期間制限の扱いが変わるという整理です。
期間の扱いが変わるということは、いつまで条文を意識しておけばよいかという見通しに関わる話です。契約が終わったあとの話だからと軽く見るよりも、契約を結ぶ時点でこの分かれ目を知っておくほうが、後の見通しを立てられます。
実務での扱いの難しさ
一方で、システム開発の局面において重過失が認められた例がほとんどないため、契約書の条文の形に落とし込むのは難しいとされています1。分かれ目として整理されてはいても、実際の場面でどちらに当てはまるかを条文だけで言い切るのは容易ではないという整理です。
個々の場面が重過失にあたるかどうかを自分で判定しようとするよりも、契約書にどういう分かれ目が置かれているかという構造そのものを知っておくほうが、条文を読むときの支えになります。次の表に、この2つの論点を並べます。
| 論点 | 整理されている内容 |
|---|---|
| 期間制限の適用 | 重過失の有無が、客観的起算点による期間制限が適用されるかどうかの分かれ目になっているとされています |
| 実務での運用 | 重過失が認められた例はほとんどなく、契約書の条文の形に落とし込むのは難しいとされています |
出典:IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」(2025年4月)をもとに作成
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7. 遡られる場面と、確かめる項目
上流工程まで遡る場面がある
多段階契約では、下流工程でトラブルが生じた際にユーザが上流工程まで遡って解除に基づく代金返還請求や損害賠償責任を追及するという紛争が頻発しているとされています1。工程が分かれていても、責任の話が下流だけで完結するとは限らないという整理です。
加えて、ベンダのプロジェクトマネジメント義務およびユーザの協力義務について、モデル契約上の手当てによって紛争の予防に資することはできないかが論点として挙げられたとされています1。役割分担をどこまで明文化しておくかという点が、こうした遡りへの備えにつながる論点です。
確かめておきたい項目
自分がどの工程を担っているかだけを見るよりも、その先の工程まで話がつながる契約かどうかを見ておくほうが、後になって想定外の話に出会う場面を減らせます。以下の表に、確かめておきたい2つの項目をまとめます。
| 場面 | 確かめておきたいこと |
|---|---|
| 上流工程への遡り | 下流工程でのトラブルが上流工程まで遡って問われる余地があるかどうかを、契約の構成から確かめる視点になります |
| 役割分担の明文化 | プロジェクトマネジメント義務や協力義務が、契約書のどこにどこまで書かれているかを確かめる視点になります |
役割と手順が言葉として残っていれば、何かが起きたときに条文へ立ち返る場所ができます。決めた内容を残る形にしておくことと、明示された条件を確かめておくこと。責任の話は、この2つに絞って確かめられます。
図の作成:Remogu編集部。多段階契約で紛争が起きやすい局面を踏まえて整理したもので、統計データではありません
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8. よくある質問
著作権の帰属は、ひな型の何条に整理されていますか
著作権の帰属は、第45・46条として整理されています1。
損害賠償と和解の条は、ひな型の何条にありますか
損害賠償は第53条です1。和解による紛争解決は第55条です1。
権利義務譲渡の禁止と解除の条は、ひな型の何条にありますか
権利義務譲渡の禁止は第51条です1。解除は第52条です1。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 IPA「システム開発の健全化に向けて(情報システム・モデル取引・契約書 講演資料)」起点の問題(2025年4月・2026年10月確認)