Webディレクターの案件で作る側との境界はどこか|条件の違いを整理
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

📘 この記事でわかること
- 画面の方針を決める人が在籍している企業と、在籍していない企業とで、受ける側が担う判断の範囲がどう変わるか
- 端末の使われ方が変わっていることと、作る側が意識しやすい観点との違いをどう埋めるか
- 技術情報の収集が個人任せになりやすいことと、境界を引く順番を先に決めておくとどんな効果があるか
Webディレクターの案件では、進行管理も要件整理も引き受ける立場になりやすく、どこまでが判断でどこからが実装かが曖昧なまま案件が動き出すことがあります。境界の位置は担当者の力量ではなく、クライアント側の体制によって変わります。この記事では、公的な調査から見える体制の傾向をもとに、境界がどこで動きやすいのかと、受ける側が先に確かめておきたい順番を整理します。決める範囲と作る範囲を早い段階で言葉にしておくと、案件が進んでからの手戻りを抑えられます。
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1. 曖昧になるのは決めると作るの間
境界は担当者ではなく体制の側にある
進行を任されると、決める仕事まで自然に引き受けてしまう場面が増えます。画面をどう見せるか、機能をどの順番で出すかという判断は、担当者の裁量に見えて、クライアント側の体制によって位置が動く境界線です。
体制が整っている先では、方針を示す役割が別に置かれていて、受ける側は示された方針に沿って進行と調整に集中できます。体制が整っていない先では、方針を示す役割そのものが空いていて、その空白が受ける側の作業として積み上がります。
利用する側の企業は、システムの品質を最も優先する事項として捉えています5。品質を評価の軸に置く先ほど、途中の判断がどう積み上がったかを確認したいという要望が出やすくなります。
参画が決まった直後の打ち合わせで、画面の方針について誰が最終的な確認を出すのかを尋ねておくと、後になって決定が覆る回数を減らせます。役割が明確な案件ほど、進行の見通しも立てやすくなります。
逆に、方針を示す役割が定まっていない案件では、提案した内容がそのまま通るか、途中で差し戻されるかの見通しが立ちにくくなります。だからこそ最初の打ち合わせで、決定の重みがどこにあるかを確かめる価値があります。
進行管理の経験があるなら、決める材料が薄い案件ほど、その経験がそのまま活きます。誰にいつ何を確認すればよいかを組み立てる力は、境界があいまいな状態でこそ差になります。
境界がはっきりしている案件では、日々の進め方は決められた範囲を丁寧に進めることに集中できます。境界が動きやすい案件では、進め方そのものを都度組み立て直す時間が必要になります。どちらの案件かを早めに見分けておくと、一日の時間の使い方が変わります。
この記事は、決める範囲を広げるべきだという話ではありません。どこまでを引き受けているかを言葉にして、案件が始まる前に共有しておく話です。次の章では、方針を決める役割が空いている状態を具体的に見ていきます。
図の作成:Remogu編集部。決める工程と作る工程の関係を整理したもので、統計データではありません
2. 画面の方針を決める人がいない
在籍している国と、在籍していない国とで差がある
UI・UXに関わるデザイナーが在籍している企業の割合は、日本で20.8%です。他国では約55%から約70%にのぼります1。同じ規模の案件でも、画面の方針を最初に示す役割がいるかどうかは、国によって大きく分かれています。
方針を示す役割がいない先ほど、受ける側に判断の材料をそろえる作業が回ってきます。操作の巧拙よりも、選択肢を並べて理由を添えられるかどうかのほうが、案件の進みやすさを左右します。
デジタル化を進めるうえでの課題として、人材不足を挙げる企業の割合は48.7%で最も大きくなっています8。人手が不足しているという課題は、方針を示す役割を新しく置く余地の少なさにもつながっています。
方針を示す役割がいない状態は、珍しいことではありません。むしろ日本では標準に近い状態だと捉えたほうが、案件に入ってからの戸惑いが減ります。
デザイナーが在籍していない案件では、提示した画面案に対して「なぜこの並びにしたのか」を尋ねられる場面が増えます。理由をあらかじめ言葉にしておくと、打ち合わせの時間を短くできます。
参画前の面談で、画面の方針を最終的に誰が確認しているかを尋ねておくと、案件が始まってからの手戻りを見積もりやすくなります。聞きにくいと感じる質問ほど、早い段階で交わしておく価値があります。
面談の場で、直近に画面の方針を決めた事例を尋ねてみると、その役割が実際に機能しているかどうかが見えてきます。事例が出てこない案件では、方針を決める材料をこちらで用意する前提に切り替えられます。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」(2025年7月)をもとに作成
体制の違いで担う範囲を見比べる
デザイナーが在籍している体制と、在籍していない体制とでは、受ける側が担いやすい範囲が変わります。どちらの体制かは、進行が始まる前のやり取りである程度見えてきます。
| 体制 | 方針を決める役割 | 受ける側が担いやすい範囲 |
|---|---|---|
| UI・UXに関わるデザイナーが在籍 | デザイナーが画面の方針を先に示す | 示された方針に沿って進行と調整を担う |
| デザイナーが在籍していない | 方針を示す役割が定まっていない | 選択肢を整理し、判断の材料を用意する範囲まで担う |
体制を見分けるための質問は、面談の場に限りません。案件の資料に目を通す際、画面の方針についての記載があるかどうかを確かめるだけでも、体制の傾向はある程度つかめます。
体制の違いを早い段階で見分けられると、どこまで踏み込んで提案するかの目安が立ちます。次の章では、その判断の前提となる、使われ方そのものの変化を見ていきます。
3. 使われ方の前提が動いている
画面を見る端末が入れ替わっている
スマートフォンの利用率は74.4%で、パソコンの46.8%を27.6ポイント上回っています2。数年前に決めた画面の前提が、そのまま今の使われ方と一致しているとは限りません。
パソコンでの見え方を基準に決められた仕様が案件の資料に残っていることもあります。決める側の意図というより、決めた時点の前提が古くなっているだけの場合が多くあります。
操作の見た目を整えることよりも、前提がいつの時点のものかを確かめることのほうが、境界を引くうえでは効きます。前提の時点を確認する一言を挟むだけで、後工程の手戻りを避けられる場面があります。
打ち合わせの中で「この画面の想定は、いつ時点で決めたものですか」と尋ねると、前提が古いままかどうかを短時間で確かめられます。答えがあいまいなときほど、前提を疑う理由になります。
参画してすぐの時期は、過去の画面案がどの端末を基準に作られたものかを確認する時間に充てられます。前提を早めに洗い出しておくと、後の工程で前提の食い違いに気づく機会を減らせます。
出典:総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」(2025年7月)をもとに作成
全社的な取組の中に置き直す
新しい働き方の実現やテレワークの拡充、業務プロセスの改善・改革といった取組は、全社的に広がっています10。画面の見直しは、単発の依頼ではなく、こうした取組の一部として動いている場合があります。
案件の背景にある取組の大きさを一言確かめておくと、決める側が求めている変更の幅を見誤りにくくなります。小さな修正のつもりが、実は前提そのものの見直しだったという行き違いを減らせます。
端末の使われ方が変わっている前提を共有しておけば、決める側と作る側の意見が割れたときも、判断の軸を利用実態に戻して話を進められます。前提を戻す一言は、対立を長引かせないための道具になります。
取組の背景を確認する質問は、決める側にとっても答えやすい部類の質問です。前提を尋ねること自体が、案件への関心として受け止められる場面もあります。
画面の方針まで任されるディレクター案件を見る →
4. 作る側の作法に合わせる部分
意識が高い点と、届いていない点がある
APIの活用や、標準的なデータの形式をそろえることは、作る側を中心に意識が高い領域です3。決める側の言葉で仕様を書くよりも、作る側が扱いやすい形式に合わせて渡すほうが、案件の進みが速くなる場面があります。
一方で、モジュール性やデータモデルを意識した設計に取り組む企業は、利用する側を中心に依然として少ない状況です4。これは怠っているというより、そこまで手が届いていないという状況に近いものです。
意識が高い部分と届いていない部分が同じ案件の中に混ざっていることは珍しくありません。両方をひとまとめに扱わず、どちらの話をしているかを分けて進めると、決める側との会話がかみ合いやすくなります。
API連携やデータ形式の取り扱いに触れてきた経験があるなら、その経験は仕様を渡す場面でそのまま活きます。作る側が扱いやすい形にそろえて渡せるかどうかは、案件の進みやすさに直結します。
設計に関わる知識がまだ少なくても、意識が高い観点と届いていない観点を切り分けて確認するだけで、決める側との会話は十分にかみ合います。専門用語を覚えることより、切り分けの視点のほうが先に効きます。
決める側の言葉に慣れている案件と、作る側の言葉に慣れている案件とでは、日々のやり取りの進め方が変わります。どちらの言葉に寄せて説明するかを案件ごとに切り替えられると、双方との調整がなめらかになります。
参画前の打ち合わせで、直近の案件でどちらの観点が優先されたかを尋ねておくと、自分の経験のどこを前面に出せばよいかが見えてきます。準備の段階で聞ける情報は、思っている以上に多くあります。
観点ごとに見比べる
外部との接続にかかわる部分と、内部の設計にかかわる部分とでは、意識の高さが分かれる傾向があります。どちらの観点を話しているかを最初にそろえておくと、後工程での認識のずれを防ぎやすくなります。
| 観点 | 決める側が意識しやすい点 | 作る側が意識しやすい点 |
|---|---|---|
| 外部との接続 | 画面の見え方や公開までのスケジュール | APIの活用や標準的なデータ形式をそろえること |
| 内部の設計 | 機能の優先順位や公開時期 | モジュール性やデータモデルを意識した設計 |
観点を分けて記録しておくと、次に似た案件を受けたときにも同じ整理をそのまま使い回せます。積み重ねた整理は、案件が変わるたびにゼロから考え直す手間を減らします。
観点を分けて確かめる習慣は、境界を毎回引き直す手間を減らします。次の章では、決める側が言葉にしていない論点を取り上げます。
5. 書かない選択という論点
取り入れる選択肢が増えている
ノーコードやローコードは、一部の利用を含めると全体の約4割の企業が取り入れています6。すべてを新しく組み立てるのではなく、既存の仕組みを取り入れて済ませるという選択肢が現実的になっています。
決める側の希望を細部まで作り込むよりも、取り入れられる仕組みで足りる部分を見分けるほうが、案件全体の進み方は安定します。作り込む前に、取り入れる余地があるかを確かめる一手間が効きます。
取り入れる仕組みで済ませられる部分を先に洗い出しておくと、作り込みに使う時間を、本当に必要な部分へ回せます。洗い出しの作業自体が、決める側との会話の材料にもなります。
方針が定まっていない領域もある
データの利活用に関する方針を明確にしている企業は少なく、対応の遅れが目立っています7。方針が定まっていない領域では、決める側に答えを求めても、明確な返答が返ってこないことがあります。
そうした場面では、今回の案件で扱う範囲を区切り、扱わない範囲を言葉にして残しておくことが、境界を引く作業そのものになります。書かない選択を明示することも、判断の一つです。
扱わない範囲を明文化するときは、言い切る言葉を避け、「今回は扱わない前提で進めます」のように、後から見直せる形にしておくと角が立ちません。
扱わない範囲を早い段階で共有しておくと、後になって「対応してもらえると思っていた」という行き違いを防げます。範囲を区切る話は、案件の入り口で済ませておくほど負担が小さくなります。
取り入れる選択と書かない選択を、参画の初期にまとめて確認できると、進行の途中で範囲を巡る調整に時間を取られにくくなります。初期の一手間が、後半の作業量を左右します。
取り入れる選択と、書かない選択は、どちらも決める作業を減らすための手段です。次の章では、こうした判断の材料がどこに留まりやすいかを見ていきます。
6. 情報が個人に留まっている
仕組みではなく個人に頼っている
技術情報の収集は体系的な仕組みを持たず、個人に任されている場合が多くあります9。案件の判断材料も同じ構図になりやすく、担当者が把握している内容が、記録として残らないまま進むことがあります。
情報が個人に留まっている状態は、参画したばかりの時期にこそ気づきやすいものです。慣れてしまう前に、記録の有無を確認しておく価値があります。
デジタル化の課題として人材不足を挙げる企業の割合は48.7%で最も大きく、他の課題より突出しています8。人が入れ替わりやすい状況では、個人に留まった判断材料はそのまま失われます。
確認した内容をチャットやドキュメントに残しておくと、担当者が変わっても判断の経緯をたどれます。記録を残す一手間は、次の打ち合わせを短くする効果もあります。
参画時に、これまでの判断がどこに記録されているかを尋ねてみると、情報が個人に留まっているかどうかがすぐに分かります。記録が見当たらない案件ほど、自分で残す記録の値打ちが高くなります。
記録を残す習慣は、体制が整っていない案件ほど効果が大きくなります。担当者が入れ替わる場面でも、記録をたどれば判断の経緯を説明できるため、引き継ぎにかかる時間そのものを減らせます。
記録の形式に決まりはありません。箇条書きで確認事項と結論を並べるだけでも、後から見返す人にとっては十分な手がかりになります。
状態を見分けて工夫を置く
情報が個人に留まっている状態は、担当者を責める話ではなく、仕組みが用意されていないという話です。受ける側にできるのは、確かめた内容をその都度、記録として残せる形にしておくことです。
| 状態 | 起きやすいこと | 受ける側が置ける工夫 |
|---|---|---|
| 技術情報の収集が個人に閉じている | 判断の根拠が引き継がれない | 確認した内容を記録に残し、共有できる形にする |
| 人材不足が課題の上位に挙がる | 1人が担う判断の範囲が広がる | どこまでを引き受けたかを都度言葉にする |
記録として残す一手間は、次に担当する人のためだけではありません。今の案件の中でも、決める側との認識のずれを早い段階で見つける役に立ちます。人材不足を背景に1人が担う範囲が広がっている案件ほど、記録を残す習慣そのものが頼りにされやすくなります。
判断の記録が活きるディレクター案件を見る →
7. 境界を引く順番
材料を確かめてから言葉にする
ここまで見てきた通り、方針を決める役割がいるかどうかは案件によって分かれます1。境界を引く作業は、いきなり分担表を作ることではなく、まず材料がどこまでそろっているかを確かめることから始まります。
材料が薄いまま分担を決めると、進行の途中で境界を引き直す羽目になります。作る側が意識しやすい観点を先に共有しておくことも、境界を安定させる材料の一つです3。
材料が薄いと感じたときほど、確認する項目を絞り込むことが有効です。画面の方針、使われ方の前提、データの受け渡し方法の三点を確かめるだけでも、境界の見通しは大きく変わります。
三点を確かめる順番を毎回同じにしておくと、案件が変わっても同じ手順で境界を組み立てられます。手順が体に馴染むほど、初めて組む相手との案件でも落ち着いて進められます。
図の作成:Remogu編集部。境界を引く手順を整理したもので、統計データではありません
場所を問わずに進められる作業でもある
材料の確認、言葉にする作業、前提のすり合わせは、いずれも顔を合わせる場所を選びません。クライアントと協議しながら記録を残していけば、離れた場所からでも境界を保てます。
三つの工程を一人で抱え込む必要もありません。材料の確認だけを先に済ませ、言葉にする作業は打ち合わせの場に持ち越すといった分け方も、離れた場所からの参画では有効です。
案件の90%以上がフルリモート可能です。決める側の体制を見分け、材料をそろえてから言葉にするという順番さえ押さえておけば、場所を理由に境界があいまいになることは避けられます。
まずは、今抱えている案件か、これから見る案件かにかかわらず、画面の方針を誰が持っているかを確かめることから始められます。
デザインツールの操作に自信がなくても案件を受けられますか
操作そのものよりも、選択肢を整理して理由を添える力のほうが問われる場面が多くあります。利用する側の企業は品質を最も優先する事項として捉えているため5、見た目の作り込みより、判断の筋道を説明できることが評価されやすい傾向にあります。参画前の打ち合わせで、判断の理由をどう伝えているかを聞かれたときに答えられる材料を用意しておくと、安心して臨めます。
決める側の情報が少ない案件では、最初に何を確認すればよいですか
まず、画面の方針を示す役割が社内にいるかどうかを確認できます。デザイナーが在籍している企業は日本で20.8%にとどまるため1、いない前提で材料をそろえる準備をしておくと、案件の立ち上がりで慌てにくくなります。次に、これまでの判断がどこに記録されているかを確認できると、材料を一から集める手間を減らせます。
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※公開中の案件数は時期によって変わります。記事中の案件の傾向は執筆時点のものです。
出典・参考情報
*1 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」設計する人の不在(2025年7月・2026年8月確認)
*2 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」使う道具の偏り(2025年7月・2026年8月確認)
*3 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」つなぎ目の意識(2025年4月・2026年8月確認)
*4 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」境界の不在(2025年4月・2026年8月確認)
*5 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」評価の軸(2025年4月・2026年8月確認)
*6 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」書かない選択(2025年4月・2026年8月確認)
*7 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」方針の遅れ(2025年4月・2026年8月確認)
*8 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」最大の課題(2025年7月・2026年8月確認)
*9 IPA「2024年度ソフトウェア動向調査 簡易分析レポート」知識の持ち方(2025年4月・2026年8月確認)
*10 総務省「令和7年版 情報通信白書(デジタル活用の動向)」取組の中身(2025年7月・2026年8月確認)